こんにちは、訪問看護師の栗鈴です。
今回の記事は、『慢性腎不全の看護計画(OP,TP,EP)』です。
よろしくお願いします!
- はじめに
- 慢性腎不全の病態生理
- 慢性腎不全の病因・増悪因子
- 慢性腎不全の疫学・予後
- 慢性腎不全の症状
- 慢性腎不全の検査値
- 慢性腎不全の合併症
- 慢性腎不全の治療法
- 慢性腎不全の看護問題
- #1 腎機能低下により日常生活に支障をきたしている
- #2 低栄養状態によって免疫力が低下する
- #3 体液貯留の増加により浮腫がみられる
- #4 排便コントロールが困難である
- #5 患者・家族が疾患に対する不安を抱えている
- #6 知識不足のため、治療のためのプログラムを日常生活に取り込めない
- おわりに
はじめに
私事ですが、慢性腎不全という疾患には特別な思い入れがありまして。私が看護学生の時、実習で初めて受け持ったのが慢性腎不全の患者さまでした。
その後、看護師になってからも腎臓内科病棟に6年ほど勤めました。慢性腎不全の患者さまの看護に関しては、数え切れないほど経験しました。
実は、私の父が片腎(腎臓の1つを摘出して、残り1つになっている状態)ということもあり、腎疾患に対する思いは人一倍強いようです。慢性腎不全は実習でも受け持つ頻度の高い疾患だと思います。ぜひ、今記事を実習や日頃の看護にお役立ていただけると幸いです!
ところで、慢性腎不全は、近年になって注目されてきているようです。
要因は、日本人の寿命が延びたことで高齢者が増加したこと。それに比例して、慢性腎不全の患者数も右肩上がりに増加していることが挙げられます。2025年には、団塊の世代と呼ばれる年代の方が全員75歳以上になるということもあり、おそらく慢性腎不全の患者数もピークに近くなるのではないかと推測します。
基本的に腎機能は加齢によって低下するという特徴があり、人生100年時代と言われているからには、誰にとっても人ごとではありません。きっちりと勉強していきましょう!
慢性腎不全の病態生理
慢性腎不全は、月・年単位で腎機能が進行性に低下していく不可逆的(元の状態には戻らない)な疾患であり、腎臓の排泄機能、内分泌機能が低下することにより、生体の内部環境の恒常性の維持が不可能になる。一般的には糸球体濾過値(GFR)が正常の50%以下、血清クレアチニン値で2.0mg/dl以上を持続しているものをいう。
- 初期には自覚症状に乏しく、蛋白尿などの尿異常から始まり、徐々に腎機能が低下して末期腎不全に進行する。
- 腎機能の低下に伴い、夜間多尿、貧血、電解質異常(高K血症、低Ca、高P血症、代謝性アシドーシスなど)、高血圧、浮腫などが出現する。さらに末期腎不全となると、循環器症状、消化器症状などの全身症状が出現する。
- 慢性腎臓病(CKD)という概念が広まってきている。CKDとは従来の慢性腎不全に、より軽度の腎障害を考え方で、軽度の蛋白尿などの腎障害、もしくはGFR60ml/分/1.73㎡未満の腎機能低下が3か月以上持続するものである。より早期から腎臓に障害があることを認識することにより、腎機能低下の進行を防ぐことがCKDという概念の基盤となっている。
慢性腎不全の病因・増悪因子
- 慢性糸球体腎炎、糖尿病成人症、腎硬化症、多発性嚢胞腎など、すべての慢性に経過する腎疾患が原因になりうる。
- 感染、過労などのストレスにより腎機能が一段と低下することがある。造影剤、消炎鎮痛剤、抗生物質などの薬剤は腎障害の進展をもたらす。生活習慣に関連した増悪因子としては、高血圧、肥満、耐糖能以上、脂質代謝異常、喫煙がある。そのほかには、貧血も増悪因子となることが知られている。
慢性腎不全の疫学・予後
- 血清クレアチニン地2.0mg/dl以上は1000人に2人程度である。一方、CKD患者は数百万人にのぼると推定される。
- 腎機能が低下し末期腎不全となると、透析あるいは腎移植が必要となる。慢性腎不全は心血管病変の危険因子であり、末期腎不全に至る前に心血管病変で死亡する確率が高い。2006年の透析導入数は3万5000人、2006年末の透析患者数は人口100万人対で2000人を越えており、約500人に1人が透析療法を行っている。
- 透析導入に至る原疾患としては、頻度の高い順に糖尿病性腎症>慢性糸球体腎炎>腎硬化症 である。透析導入後の5年生存率は約60%、10年生存率は40%である。透析患者の死亡原因は心血管病変が第1位を占め、次いで感染症、悪性腫瘍の順となっている。
慢性腎不全の症状
慢性腎不全の病期は、無症状のステージG1から尿毒症のステージG5まで、6期に分類される。
- 尿毒症は下記の全身症状をきたす。
- 循環器症状(高血圧、心不全、虚血性心疾患、心膜炎、心筋炎、不整脈)
- 電解質異常(高K血症、低Ca血症、高P血症、高Mg血症)
- 酸塩基平衡異常(代謝性アシドーシス)
- 内分泌・代謝異常(二次性副甲状腺機能亢進症、甲状腺ホルモン異常、耐糖能い低下、高脂血症、低栄養、痛風)
- 造血器症状(貧血、出血傾向)
- 消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振、腸炎、潰瘍)
- 皮膚症状(色素沈着、掻痒感、皮下出血)
- 末梢神経異常(多発性神経炎、知覚異常、筋力低下)
- 中枢神経異常(不眠、頭痛、傾眠、痙攣、振戦、痙攣)
- 眼症状(網膜症、角膜へのCa沈着)
- 精神症状(抑うつ、不安、錯乱)
慢性腎不全の検査値
- 早期発見には尿検査(蛋白尿、血尿)が有効である。
- 腎機能の評価にはクレアチニンクリアランス、血清クレアチニン値から求められるeGFR(推定糸球体濾過値)によって行う。
- 慢性腎不全ステージG3以降は、
- 尿比重の低下(比重1.010以下)
- 血中BUN(尿素窒素)の上昇
- 血清クレアチニンの上昇
- 血清Kの上昇
- 血清Caの低下
- 血清Pの上昇
- PHの低下
- RBC・Hb、Htの低下
を生じる。
慢性腎不全の合併症
- 心血管病変(高血圧、脂質異常、Ca、P異常による動脈硬化進行、貧血等が原因)
- 感染症(免疫力低下により生じる)
- 悪性腫瘍(免疫力低下により生じる)
- 二次性副甲状腺機能亢進症(低Ca、高Pの持続による副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌亢進により生じる)
- 腎性骨異栄養症(低Ca、高Pの持続による骨代謝の異常を生じる)
- 透析アミロイドーシス(透析で除去しきれないβ₂ミクログロブリンの関節、骨沈着により生じる)
慢性腎不全の治療法
- 高血圧は腎機能を悪化させるため、血圧管理を厳格に行う。降圧薬のなかでは、腎臓保護作用が認められるアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を積極的に使用する。
- 食事療法は十分なエネルギー摂取、低たんぱく、低塩分が基本である。
- 慢性腎不全で認める症状に対しては、薬物療法で対応する。
慢性腎不全の薬物療法
- 高血圧(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬:ディオバン等、ACE阻害薬:タナトリル等、Ca拮抗薬:アムロジン等)
- 高K血症(血清カリウム抑制薬:アーガメイトゼリー等)
- 低Ca血症(活性型ビタミンD₃製剤:アルファロール等)
- 高P血症(高リン血症治療薬:カルタン等)
- 腎性貧血(エリスロポエチン製剤:エスポー、エポジン、ミルセラ等)
- 代謝性アシドーシス(アシドーシス治療薬:炭酸水素ナトリウム等)
- 尿量低下(ループ利尿薬:ラシックス等)
- 腎不全の進行抑制(尿毒症毒素吸着薬:クレメジン等)
透析療法
末期腎不全では血液透析、持続携行式腹膜透析(CAPD:一般にいう腹膜透析)などの透析療法、あるいは腎移植が必要となる。
慢性腎不全の透析導入基準
①血液透析
血液透析は、血液を体外に出して、透析器(ダイアライザー)内で半透膜を介して拡散と濾過により血液と透析液間で物質交換を行い、血液成分を生理的状態まで改善した上で体内に戻す方法である。
- 血液を体外に循環させるために、血管アクセス(バスキュラーアクセス)を造設する。一般には血管吻合により動脈と静脈をつないだ内シャントを橈骨動脈と橈側皮静脈間に増設し、その結果血流が増大して腫脹した前腕の皮下静脈を穿刺して血液透析を行う。血液凝固を防ぐため、ヘパリンなどの抗凝固薬を使用する。
- 透析液は、慢性腎不全において除去すべき物質(Kなど)は低濃度に、補給すべき物質(Ca、炭酸水素)などは高濃度に含む組成になっており、これらの物質が濃度の高い方から低い方へ移動する拡散の原理により体液成分が改善される。
- 体内に貯留した水分は、血液側と透析液側の圧力の差を利用した限外濾過により除去される。
- 合併症として、短時間に体液が変化する結果、頭痛や悪心・嘔吐などをきたす透析不均衡症候群があり、透析導入時に多い。また、循環動態が不良の場合は血液透析中に血圧低下をきたし、透析が行えないこともある。このような患者では腹膜透析を選択することになる。血液透析は通常週3回、1回3~4時間かけて行われ、患者は定期的に医療施設に通院する。
②腹膜透析
腹膜透析は全透析患者の約3~5%が行っており、半透膜の性質を有する腹膜を透析膜とし、血液と、腹腔内に注入した透析液との間の物質交換により体液を是正する方法である。
- 透析液の注入・排液のために腹腔カテーテルを留置する。カテーテルは腹壁からダグラス窩に挿入される。
- 1.5L~2.5Lの透析液を約6時間腹腔内に貯留した後にに排液氏、新しい透析液を注液する。一般にはこの方法を1日4回繰り返す。患者によってはこの操作を夜間のみ、機械を用いて自動的に行うことも可能である(APD:自動腹膜透析)。
- 腹膜の毛細血管内の血液と透析液との間で、濃度勾配に応じた物質の交換が行われる。透析液のブドウ糖濃度を高くし浸透圧を高くすることにより、体内に貯留した水分を透析液側に移動させ除水を行う。
- 合併症として留置カテーテルを介した腹膜炎がある。また、腹膜透析を長期にわたって行うと、腹膜がびまん性に肥厚して広範に癒着しイレウス症状を起こす被嚢性腹膜硬化症(EPS)を呈することがある。被嚢性腹膜硬化症は重篤な合併症であり、生命予後をも左右する。
- 腹膜透析の透析液交換は自宅や職場など医療施設外でも可能であり(在宅治療)、患者が体重、血圧、排液の状態などを記録する。通院頻度は一般につき1~2回となる。
③腎移植
腎臓移植には生体腎移植と献腎移植があり、実際に行われる大部分が生体腎移植である。日本での腎移植件数は年々増えてきており、年間1500例~2000例程度である。
- 他人の腎臓を移植することにより、移植腎に対する拒絶反応が生じる。拒絶反応を少なくするためにはリンパ球抗原である組織適合抗原、血液型が一致する提供者が望ましい。
- 拒絶反応は、進行すると移植腎の機能が廃絶する重篤な合併症である。拒絶反応を抑えるためにステロイドや免疫抑制剤が使用されるが、これらの薬剤の副作用も腎移植の合併症として注意すべきものである。
- 移植した腎臓が機能している割合(生着率)は、生体腎移植の場合1年後で約90%、10年後では50%強である。
- 移植の長所として、生活の質の向上、長期透析合併症の予防などがあり、推進すべき治療法である。
慢性腎不全の看護問題
#1 腎機能低下により日常生活に支障をきたしている
長期目標
全身状態が安定し、日常生活動作が自立する
観察計画(OP)
- バイタルサインを観察する
- 症状の有無・部位・程度を観察する
ケア計画(TP)
- 日常生活動作に応じて必要な援助を実施する
- 医師の指示に従い、適切に投薬を行う
教育計画(EP)
- 症状の変化を自覚した際はすぐに医療者に伝えるよう指導する
- 医師に指示された生活指導区分の範囲内で活動するよう伝える
⇩生活指導区分については下記参照⇩
生活指導ガイドライン-一般のみなさまへ-一般社団法人 日本腎臓学会|Japanese Society of Nephrology
#2 低栄養状態によって免疫力が低下する
長期目標
栄養状態が改善され、感染を起こさずに過ごせる
短期目標
食事摂取量が増え、血液データの改善がみられる
観察計画(OP)
- 消化器症状の有無を観察する
- 食事摂取量を観察する
- 体重を定期的に確認する
- 食欲の有無・程度を観察する
- 栄養の必要性と、食事制限に関する知識についての理解度を把握する
ケア計画(TP)
- 嗜好や嚥下機能等に応じて、摂りやすい食品を選択できるように情報提供する
- 不足するビタミンやミネラル、電解質の栄養補給ができるよう栄養士と相談しながら支援する
教育計画(EP)
- タンパク質、塩分、カリウム、リンの摂取の制限が必要であることを伝える
- 過剰な摂取制限は不要であることも付け加えて伝える
#3 体液貯留の増加により浮腫がみられる
長期目標
適切な体重、体液量が維持される
観察計画(OP)
- 症状の有無・程度の観察
- 検査データ、尿量、体重を確認する
- 浮腫の程度を観察する
- 食事内容を確認する
ケア計画(TP)
- 利尿薬などの薬物療法によるバイタルサインや尿量の変化を観察する
- 症状出現時やバイタルサインの異常がある際は早期に医師に報告する
- 安楽に過ごせるように環境整備や体位の調節、足浴等を行う
- 適切な栄養・食事管理が退院後も行えるよう栄養士に相談する
教育計画(EP)
- 水分・食事摂取量を把握し、過剰摂取している場合は量を減らすように指導する
- 家族に患者の身体状況を説明し、食事管理に協力してもらえるよう家族にも指導する
#4 排便コントロールが困難である
長期目標
規則正しい排便があり、腹部不快感がなく過ごせる
観察計画(OP)
- 最終排便の日を確認する
- 便秘の有無・程度を観察する
- 腹部不快感の有無を観察する
- 便量、便の性状を観察する
ケア計画(TP)
- 毎日定時に排便を誘導し、排便の習慣化を図る
- 飲水制限の範囲内で、できる限り水分摂取を図る
- 必要に応じて腹部マッサージや温罨法を行う
- 2日以上排便が無ければ、医師と相談のうえ、緩下剤の調節や、坐薬、浣腸の実施を検討する(マグネシウム含有下剤は避けるのが望ましい)
教育計画(EP)
- 患者に対して、薬の副作用で便秘になりやすいことを説明し、予防方法を指導する
#5 患者・家族が疾患に対する不安を抱えている
長期目標
腎機能低下における身体の状態について理解が深まり、将来の見通しを立てることができる
短期目標
ケアや社会的支援により療養環境が整えられ、自己効力感が向上する
観察計画(OP)
- 症状の出現状況、部位、程度の観察
- 患者・家族の疾患に対する知識の把握
ケア計画(TP)
- 患者の身体状況・心理状況の変化に寄り添い、信頼関係が築かれるように適切なコミュニケーションを図る
- 必要に応じて適切なケアを行う
- 社会的支援(透析療法を実施する場合;特定疾病医療受給の申請や身体障碍者手帳の申請、訪問看護の調整など)が得られるように情報を提供する
教育計画(EP)
- 疾患について患者・家族の理解が進むようにわかりやすく説明する
#6 知識不足のため、治療のためのプログラムを日常生活に取り込めない
長期目標
適切なセルフケア行動がとれる
観察計画(OP)
- 患者・家族の心理・社会的側面の把握に努める
ケア計画(TP)
- 生活の中で腎機能低下を助長する要因を見出し、要因を軽減させていく方向性で生活調整ができるように支援する
- 行われる治療(薬物療法、透析療法、腎移植に伴う拒絶反応予防のためのステロイド療法など)が必要不可欠であることを患者に丁寧に説明できるように医師と連携する
- 仕事などの社会的な課題がある場合は、それらの調整を支援する
教育計画(EP)
- 血液データ等を通じて腎機能の状態を患者がイメージできるように説明する
- 透析療法を行っている場合は、日々の生活調整と身体状態の変化を照らし合わせて腎不全の生活指導を行う
以上になります!いかがでしたでしょうか。
おわりに
慢性腎不全は経過の長い疾患で、基本的には一生付き合わなくてはならない疾患です。飲水、塩分、蛋白、カリウム、リンなど、食生活では制限することだらけですが、過剰な摂取制限は低栄養状態や廃用(フレイル)を引き起こし、かえって腎機能低下を助長させたり感染リスク等を増大させる場合があります。極端に制限の必要性を説明するのではなく、適度な食事管理ができるように患者さまを支えていきましょう。腎不全は大変な疾患ですが、自分の身体を見つめなおし、関心を向け、病を受け入れ、自己管理ができるようになれば、概ね安定した生活を維持していくことが出来ます。『腎友会』などの患者会や、『腎臓サポート協会』『じんラボ』などの透析に関するコミュニティや情報発信サイトも探せばたくさんありますので、決して一人で苦しむことはありません!(下記にリンクを貼っておきます。)透析療法に関しては、公費制度も日本はものすごく整備されていますので、支援をきっちり受けることが出来ます!看護師は少しでも腎疾患の方が安心して暮らせるように、一生を支えるつもりで看護をしていきましょう!
おわり!ご意見をお待ちしております。
あと、ツイッター『栗鈴』もやっております!
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記事のリクエスト、はてなブックマーク、コメントもお待ちしております!
ページの下の方なのですが、コメントくださった方には必ず返事しますので、よかったらどうぞ!
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