こんにちは、訪問看護師の栗鈴です。今回の記事は、『慢性心不全,うっ血性心不全の看護計画【OP,TP,EP】』です。よろしくお願いします!
- はじめに
- 慢性心不全の病態生理
- 慢性心不全の病因・増悪因子
- 慢性心不全の疫学・予後
- 慢性心不全の症状
- 慢性心不全の診断
- 慢性心不全の合併症
- 慢性心不全の治療法
- 慢性心不全の看護問題の例
- 慢性心不全の看護計画の例
- おわりに
- 参考文献
はじめに
看護実習で慢性心不全の患者さまを受け持つことは比較的多いかと思います。既往歴で心不全を合併している方も多いので、慢性心不全の勉強は必ず必要になります!ぜひ、今回の記事を看護実習のお役に立てて頂ければと思いますので、よろしくお願いします!では、やっていきましょう!
慢性心不全の病態生理
心不全とは、心臓のポンプ機能が破綻したために、各組織に必要な血液量を駆出できなくなり、肺または体静脈系にうっ血を生じた病態で、病名ではない。すべての心疾患の終末像といえる。心不全のうち、徐々に病態が進行したものを慢性心不全と呼ぶ。
慢性心不全の病因・増悪因子
- 病因
- 心疾患(心筋梗塞、弁膜症、不整脈、心筋症など)
- 呼吸器疾患
- 内分泌疾患
- 腎疾患
など心臓に負荷がかかる病態が存在することにより、慢性心不全を生じる。
- 増悪因子
- 基礎心血管疾患の増悪
- 過労
- ストレス
- 塩分・水分摂取過多
- 不整脈の出現
- 呼吸器系感染症
- 貧血
- 甲状腺疾患、
- 腎疾患
- 循環血液量・心機能に影響する薬剤の投与あるいは中断 など。
慢性心不全の疫学・予後
すべての心疾患の終末像であり、進行性の経過をたどる。生命予後はきわめて悪く、5年生存率は一般に50%以下といわれている。
慢性心不全の症状
- 慢性心不全では、心機能は低い状態でありながら、長い経過のなかで代償機転が働き、無症候性(病態はあるが症状はない状態)に経過することも多い。しかし、心予備能が低いため、疲労や感染などを契機に、容易に症状が出現する。
- 厳密な区別は困難だが、「左心室が血液を送り出す機能が低下したために起こる症状(左心不全)」、「右心室の働きが低下したことによる症状(右心不全)」に分けられる。
右心不全の症状
下腿の浮腫から症状が始まることが多い。
- 浮腫、下肢浮腫
- 腹水貯留
- 体重増加
- 頸静脈怒張
- クスマウル兆候(吸気時に頸静脈怒張が顕著となる。)
- 肝頸静脈反射(季肋部を30~60秒圧迫すると頸静脈怒張が持続する。)
- 肝腫大
- 蛋白漏出性胃腸症
- 食欲不振、悪心(嘔気)などの消化器症状
- 尿量低下 など
左心不全の症状
主に呼吸困難、息切れから始まることが多い。
- 呼吸困難、労作時呼吸苦、夜間発作性呼吸困難(臥位では肺うっ血が増悪するため)
- 咳嗽、喀痰、血性泡沫性痰
- 起座呼吸(臥位では肺うっ血が増悪するため座位で呼吸困難が軽減する)、浅呼吸、喘鳴
- 肺聴診にて副雑音の聴取
- 動悸、頻脈
- 四肢冷感・湿潤
- 尿量低下 など
慢性心不全の診断
- 症状および検査所見により診断する。とくにBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)値の判定が有用である。
- 心不全の診断基準として、フラミンガム心不全診断基準がある。
- 心不全の重症度評価はNYHA(ニーハ:ニューヨーク心臓協会)心機能分類が用いられる。
- 胸部X線写真(心拡大、肺うっ血所見、胸水など)
- 心電図(不整脈の有無など)
- 心エコー検査(心駆出率の低下、血管内容負荷の上昇など)
- 血液学検査(血算、肝機能、腎機能、電解質、血糖、CRP:C反応性蛋白、BNP:脳性ナトリウム利尿ペプチド)
- スワンガンツカテーテルによる血行動態評価(心係数、肺動脈楔入圧の評価)
- 心不全の原因となった疾患の精査・評価(冠動脈造影、心臓核医学検査:【心RIアンジオグラフィ、心筋血流シンチグラフィ】、甲状腺機能検査など)
BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)
- 心臓から分泌されるホルモンの一つで、心臓への負荷が大きいほど多く分泌されるため、心不全の診断に使用される。
- 症状が出現する前の軽度心不全でも、BNP値の増加が認められ、心不全が重症化するほど高い値になる。
- 健常な若年者のBNP値は約18.4ng/mlであるが、腎機能低下例、高齢者(特に70歳以上)では、高値を示す傾向がある。激しい運動のあとには、健常者でも若干増加する。
- 早朝空腹時、安静時採血が望ましい。
慢性心不全の合併症
- 不整脈(心房細動、心室頻拍など)
- ショック
- 多臓器不全
- 肺高血圧症
- 低心拍出のためにできた左室内血栓による全身塞栓症
- 腎機能障害 など
慢性心不全の治療法
- 患者指導:毎日の体重測定、下肢浮腫のチェック(日単位で2㎏以上の体重増加は心不全増悪の可能性大)
- 食事指導:塩分制限(6~8g/日以下)、禁煙、禁酒・節酒、体重管理
- 運動療法:適度な運動は運動耐用能を増し、日常生活中の症状を改善する。慢性心不全増悪時には安静が必要であり、運動は禁忌。
- 薬物療法:
- アンジオテンシン変換酵素阻害薬:ACE阻害薬(レニベース、エナラプリル等)
- アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬:ARB製剤(ブロプレス、ディオバン、ミカルディス、オルメテック等)
- β遮断薬(アーチスト、メインテート等)
- 強心薬(ジゴキシン等)
- ループ利尿薬(フロセミド等)
- カリウム保持性利尿薬(アルダクトン等)
- PDE【ホスホジエステラーゼ】Ⅲ阻害薬(アカルディ等)
慢性心不全の薬物療法
利尿薬(ループ利尿薬、カリウム保持性利尿薬)
利尿と降圧効果を目的に使用される。数種類の利尿薬があるが、利尿薬の代表的な副作用は低K血症、低Na血症、低Cl性アルカローシス、高尿酸血症、不整脈などがある。
ジギタリス製剤(強心薬)
心筋の収縮力増強作用、徐脈作用、利尿作用などがある。ジギタリス中毒を起こす場合があるので、血中濃度を定期的に測定する必要がある。副作用は、食欲低下、悪心・嘔吐、視覚異常、めまい、頭痛、不整脈、低K血症、高Ca血症など、多い。
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬
末梢血管抵抗の低下、水・Naの排泄促進、降圧効果によって心臓・腎臓の保護作用、インスリン抵抗性の改善作用がある。副作用には咳嗽、浮腫、発疹、味覚異常、血管浮腫、急性腎不全などがある。
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
アルドステロン産生抑制により、降圧効果がある。血管浮腫、肝機能障害、腎機能障害などの副作用がある。
β遮断薬
拡張型心筋症、虚血性心疾患による心不全に使用される。副作用は、徐脈、末梢動脈疾患の悪化、喘息発作の誘発、痙攣性狭心症の悪化、抑うつ、不眠、筋肉痛などがある。心不全を増悪させる場合もあるので、少量から投与される。
慢性心不全の看護問題の例
#1 心拍出量減少とガス交換障害に関連した運動耐用能の低下(活動‐運動パターン)
#2 呼吸困難などの心不全症状による休息‐活動リズムの障害(睡眠‐休息パターン)
#3 不適切な保健行動による心不全の急性増悪の可能性(健康知覚‐健康管理パターン)
#4 病状悪化や今後の生活などに対する不安(自己知覚‐自己概念パターン)
慢性心不全の看護計画の例
#1 心拍出量減少とガス交換障害に関連した運動耐用能の低下(活動‐運動パターン)
長期目標
活動性を維持(向上)することができる
短期目標
- 低心拍出量の徴候・症状がない
- ガス交換障害の徴候・症状がない
- 低栄養、長期臥床等の二次的合併症(褥瘡、尿路感染、深部静脈血栓症:DVT等)がない
- 心機能レベルに適したADL(日常生活動作)を獲得する
観察計画(OP)
- 胸部X線画像の確認
- NYHA分類の確認
- 心不全症状(右心不全・左心不全)の有無・程度の観察
- 飲水量・尿量の観察
- 体重の確認
- 検査データの確認
ケア計画(TP)
- NYHA分類に適した心臓リハビリテーションを実施する
- 活動やケア中に心不全症状がある場合は、活動を中止したり、活動時間を減らす
- 活動範囲を広げる際は症状の程度をみながら徐々に拡大する
- 1つ1つの活動ごとに休憩の時間を設ける
- 急な体重増加がみられた際は医師に報告し病状悪化の予防に努める
- 心機能や活動範囲に応じて日常生活を援助する
- ケア実施時は過剰な運動負荷がかからないように介助方法や環境を工夫する
- 水分・塩分制限が守れるように励ましたり必要性について説明する
- 制限に伴うストレスについて受容的態度を示し、気分転換やストレス軽減を図る
- 呼吸困難がある場合は安楽な呼吸体位(起座位など)に整える
- 酸素療法実施中は、指示された酸素投与を守り、呼吸状態をこまめに観察する
- 急性増悪時に備え、酸素療法や一次救命処置がすぐ実施できるよう準備する
教育計画(EP)
- 心機能に合った活動範囲や水分・塩分制限を守れるように説明して理解を得る
- 活動負荷を軽減する方法を説明する(食前後1時間は安静にする、排便時の怒責を軽減するために便秘予防の方法について説明する、日常生活に必要な動作はなるべく座った状態で行う、活動の合間に休息する習慣をつける 等)
#2 呼吸困難などの心不全症状による休息‐活動リズムの障害(睡眠‐休息パターン)
長期目標
休憩と活動のバランスをとることができる
短期目標
- 安静時の心不全症状が消失する
- 苦痛なく夜間に睡眠をとることができる
観察計画(OP)
- 症状出現時の状況・程度の観察
- 睡眠中の呼吸状態、睡眠時間、入眠困難の有無の観察
- 日中の倦怠感や居眠り、気分の変調などの観察
ケア計画(TP)
- 睡眠時に心不全症状がある場合は、起坐位やファーラー位などの安楽体位で眠れるように援助する
- 睡眠を妨げないように夜間の処置は最小限にする
- 日中の活動予定を一緒に考える(気分転換、清潔ケア、リハビリテーション等)
- 夜間排泄のために睡眠が妨げられる場合は夜間の飲水を制限する
- 入眠を促す方法を一緒に考える(環境整備、睡眠前の足浴など)
教育計画(EP)
- 心不全症状が睡眠に及ぼす影響を説明する
- 毎日の睡眠状況(入眠時間、睡眠時間、睡眠時の症状など)を把握できるように説明する
#3 不適切な保健行動による心不全の急性増悪の可能性(健康知覚‐健康管理パターン)
長期目標
望ましい保健行動の獲得によって急性増悪や薬物療法の副作用を予防できる
短期目標
- 心不全の増悪徴候がない
- 治療方針に対する疑問を医療者に表出でき、治療目的を理解できる
- 心不全の増悪を予防するために必要な日常生活上の注意点を理解して、実践していく意思を示す
- 内服薬の名前、投与量、投与回数、作用・副作用を理解できる
- 必要な日常生活について家族とも一緒に考えることが出来る
観察計画(OP)
- 症状の有無、悪化の徴候を常に観察する
- 心不全の病態や内服薬の作用・副作用、活動制限の必要性に関する理解度や認識を把握する
- 日常生活様式の変化に対する態度を観察する
- 医師から指示された食事・水分・活動範囲・内服薬の服薬の状況
- 1日の水分出納、体重変化の観察
- 効果的な保健行動に対する疑問や抵抗、拒否などの表出の有無
ケア計画(TP)
- 患者が抱いている治療方針に対する疑問や、今後の生活管理に対する認識などを表出するように促す
- 生活様式の変化に伴うストレスに対して共感・需要して、自己効力感を高められるように支援する
- 必要に応じて、家族・キーパーソンに働きかけ、患者とともに学べる場を用意する
- 患者・家族の理解度に応じたパンフレットを作成する
- インターネットなど、自主的な学習を促す
教育計画(EP)
- 塩分・食事制限、禁煙、禁酒の必要性を説明する
- 入院中の食事と比較しながら食事指導を行う
- 栄養士から、生活状況に応じた食事の在り方について指導してもらう
- 利尿薬の副作用と一緒に、脱水予防の指導(体重管理、バイタル測定、脱水症状についての説明など)を行う
- 薬剤師から、薬の名前、投与量、投与回数、作用・副作用について指導してもらう
- 体重測定実施の重要性を説明し、短期間に急激に増加する場合は早期に受診するように指導する
- 心不全増悪時の主症状を十分に説明し、症状出現時は早期に受診するように説明する
- 生活管理に対するストレスが強い場合は、1人で悩まないように伝える
- 呼吸器感染症と心不全悪化の関係について説明し、手洗いやマスク、官房症状出現時の早期受診について指導する
- 定期的な受診によって急性増悪を予防することの重要性を説明する
#4 病状悪化や今後の生活などに対する不安(自己知覚‐自己概念パターン)
長期目標
身体・心理・社会的不安が軽減され、安楽が増大したとの言動が表出される
短期目標
- 不安に思っていることや気持ちを伝えることが出来る
- 不安や恐怖心を増悪させる原因を認識できる
- 適切なコーピング行動をとることが出来る
観察計画(OP)
- 心不全の治療、増悪予防のための生活管理に対する認識や受け止め方について把握する
- 心不全症状の有無を観察する
- 心配、無力感、自信がない、イライラ、怒り、泣くなどの情動的変化の有無を観察する
- 不安の訴えの有無を確認する
ケア計画(TP)
- 傍に付き添い、共感的理解の姿勢・態度を伝える(傾聴・タッチングなど)
- 静かな部屋等、不安が増強しない環境を整える
- 考える余裕があれば、不安を増強させる原因や状況、きっかけなどを考えてもらえるように促す(日記など)
- 患者が努力している部分を可能な限り肯定的に評価する
- コーピング行動について一緒に振り返り、どのような行動がストレス軽減につながるのかを共に考えたり提案したりする
- 不安や緊張を緩和する介入を提供する(音楽、リラクゼーション、マッサージ、アロマテラピー、レクリエーションなど)
- 必要に応じて医療ソーシャルワーカーを紹介する
教育計画(EP)
- 心不全に対する誤った認識がり、それが不安の原因になっている場合は、正しい知識を分かりやすく説明する
- 漠然とした将来の不安など、避けられないストレスに対して、解消するための手段を伝える(リラクゼーション、瞑想、自律訓練法、深呼吸など)
以上になります!いかがでしたでしょうか。
おわりに
心不全の症状は、日常生活全般に影響を与えます!
さらに食事制限・水分制限が必要であり、日常的な小さな喜びさえも奪われてしまうことがあります。
身体的にも心理的も社会的にも苦痛が強くなるため、医療者の支援は必須です!
患者さまが少しでも苦痛と不安を軽減しながら自分に合った生活が送れるように、ベストな看護が提供できるように努めていきましょう!
おわり。
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— 栗鈴@ブログ7年目 (@maaiikanokokoro) October 8, 2022
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参考文献
病期・病態・重症度からみた疾患別看護過程+病態関連図 189‐208P:編集 井上智子/佐藤千史:医学書院