みなさんこんにちは!訪問看護師の栗鈴です。
今回の記事は『認知症の看護過程のポイント!(情報収集、症状【BPSD】、アセスメントも!』です。
看護計画は今回載せていないのですが、看護過程に必要な情報を13,000字に渡って皆様にお送りいたします!それではいってみましょう!
- はじめに
- 認知症の看護
- 認知症の情報収集
- 認知症の進行
- 認知症の日常生活援助におけるアセスメント
- 認知症の看護の介入
- BPSDへの対応例
- 認知症の事故防止策
- 認知症患者・家族への教育
- おわりに
はじめに
現在私は訪問看護ステーションで働いています。
私は平成元年生まれなのですが、 30歳になるまでには、ある程度の在宅医療の知識を持っておきたいという気持ちが昔からありました。
研修でも、2025年には団塊の世代がみんな75歳以上になる!病院はいずれパンクするから在宅医療のニーズはすごく高まる!だから、訪問看護やるなら今だ!
と何度も言われ続けてきました…でも、確かになぁ、と思います。前に勤めていた病院はすでにパンク寸前でした。ベッドを増やして対応していたのですが…病棟を1つ増やすのに2年かかってました。やはり、いずれは患者さまが溢れてしまう可能性が高いのではないかと思う…そうした時、医療における充実が求められるのは、
- 退院支援
- 継続看護
- 在宅医療
この3つは間違いない。
今では、実際に上記3つに関してはプロとなりました…!
とまぁ、在宅医療の話はまたの機会にして。今回のテーマは、認知症の看護 です。
在宅医療の現場でも、認知症の方はとても多いです。在宅における医療サービスは、大半が介護保険により提供されるのです。もはや、介護といったら認知症って言っても過言ではない。よって、訪問看護に携わる者にとって、認知症の看護の知識・技術を身につけることは必須と言っていいでしょう。
訪問看護に携わる看護師さん、認知症に携わる看護師さん、認知症を持つご家族様などは、今回の記事をぜひご一読してほしいと思います!私はまだ、ひよっこなので、説得力も何もないかもしれませんが…よろしくお願いします!では、やっていきましょう!
認知症の看護
認知症の方をイメージしながら、一緒に勉強していきましょう
認知症の情報収集
- 認知症の症状がいつ出現したのか
- 発症時の様子
- どんな症状か
- どのくらいの症状か(症状の程度)
- 現病歴
- 既往歴
について、本人および家族から情報を得る。
- 認知症の原因となる疾患により、特徴となる症状や経過、予後は異なる。
2.ADLおよび生活リズム・パターンを把握する。
- 認知機能の低下により、徐々にADLが障害され、生活リズムが崩れていく。
3.社会的背景を把握する。
- 生活環境
- 家族関係
- 対人関係
- 介護者の有無
- 介護状況
- 社会資源の活用状況
- 経済状況
- 職歴
など。
- 認知症の症状は多様であり、個人の価値観や生きてきた背景、現在置かれている状況などが大きく影響する。
4.検査データ、認知症評価の結果を確認する。
- 簡易機能検査
- 画像診断
- 身体状態(麻痺や神経症状の有無など)
- 認知機能障害
の評価により、総合的に認知症を診断する必要がある。
a.簡易認知機能検査
簡易精神機能検査(MMSE:Mini-Mental State Examination)
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
柄澤式「老人知能の臨床的判断基準」
Functional Assessment Staging (FAST)
など。
- MMSEやHDS-Rは、質問式のアセスメントスケールであり、認知症のスクリーニングテストとして用いられている。
- 柄澤式「老人知能の臨床的判断基準」は、観察式のアセスメントスケールであり、日常生活上の言動や態度、社会生活や作業遂行能力などから知的レベルを大まかな段階で評価することを目的としたものである。
- FASTはアルツハイマー型認知症(AD、以下AD)の重症度を評価するスケールである。
- 質問式は対象者の協力が必要であり、また、視聴覚障害や失語が顕著である場合は適応にならない。
- 観察式は対象者の普段の生活について十分に情報を得てから実施する必要がある。対象者の状態および目的に合わせて(スクリーニング、重症度の判定、薬物治療やケアの効果判定など)、適切に認知機能検査を使用する。
b.画像検査
CT、MRI、SPECT、PETなど
- CTは特に正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫などの治療可能な認知症疾患の診断や鑑別に役立つが、ADなどの早期診断や鑑別診断においては限界がある。
- MRIはADの初期における脳の萎縮の評価や、レビー小体型認知症との鑑別診断に有用である。
- SPECTおよびPETは、認知症の早期診断と治療判定、予後予測の診断などが期待されている。PETはSPECTより優れた画像を得ることができるが、特殊な装置が必要となるため、SPECTが広く普及し利用されている。
c.血液データ
認知症に直接関係する検査値はないため、参考確認程度で。
認知症のアセスメント
1.バイタルサインおよび全身状態の観察により、身体状態を把握する。
- 認知症の症状は、身体状態の影響を受ける。
- 認知機能の障害により自分自身で身体の異常に気づき訴えることが困難である場合があるため、異常の早期発見に努める。
2.認知機能障害(中核症状)の種類と程度を評価する。
- 認知機能障害(中核症状)は、認知症の原因疾患によってさまざまな特徴がみられる。簡易認知機能検査(質問式、観察式)などを用いて適切にアセスメントを行う。
- 加齢による視聴覚機能への影響を十分に評価する。
認知機能障害
a.記憶障害
ほぼ全ての認知症で記憶障害を認める。新しい情報を学習したり、以前に学習した情報を想起したりすることができなくなる。短期記憶障害が目立ち、長期記憶は比較的残っていることが多い。特にエピソード記憶の障害を認め、ADでは顕著にみられる。
- 加齢による物忘れとの違いに注意する。
短期記憶の障害
数秒から数分前のことを記憶できない。
長期記憶の障害
エピソード記憶、意味記憶、手続き記憶が障害される。
b.見当識障害
記憶障害や理解力、判断力の低下のために、時間、場所、人物の見当がつかなくなる。
まず、時間に関する見当識が障害され、夜中に起きて出かけようとするなどの行動変化を伴う場合が多い。進行すると、迷子になったり、遠くに歩いて行こうとしたりするなど、場所の見当識が障害される。
人物の見当識障害では、自分の過去の体験に関連した人物に誤認することが多く、見当識障害がかなり進行してから現れる。
- 加齢による物忘れの場合、見当識は保たれる。
時間の見当識障害
- 日、月、年、時刻の順番で障害される。
場所の見当識障害
- 今いる場所とほかの場所との位置関係が分からない場合(部屋を間違える、屋外で道に迷うなど)と、今いる場所が分からない場合(病院を自宅と間違える、自宅を自宅と思わないなど)がある。
人物の見当識障害
- 今ここにいる他者が誰か、どのような人か分からない状況
c.失語・言語障害
言葉を見つけ出す、理解することが難しくなる。
換語困難
- 言葉がうまくでてこない、言葉の言い換えが難しい。
語想起の低下
- 単語を思い出すことが難しい。
言語理解の低下
- 相手の言葉の内容が理解しにくい。
反響言語の出現
- 相手の言葉をオウム返しする。
d.失行
運動機能が損なわれていないにも関わらず、動作を行うことができない。
- 失行は、認知症の原因疾患や進行度によって発症が異なる。
構成失行
- 立体図形や絵が模写できない。
観念運動失行
- 単純な指示動作ができなくなる。
観念失行
- 使い慣れた道具を使うことができなくなる。
着衣失行
- 衣服の着衣ができなくなる。
e.失認
視覚機能が損なわれていないにも関わらず、対象物などを理解する、把握することができなくなる。
- 失認は、認知症の原因疾患や進行度によって発症が異なる。
視空間失認
- 空間における物の位置、物と物の位置関係が理解できなくなる。
触覚失認
- 日常使用しているものに触れても、それが何か分からなくなる。
手指失認
- 何指なのかが分からなくなる。
身体失認
- 自分の体の部分への認知ができなくなる。
鏡像認知障害
- 鏡に映っている人物が誰なのか認識できない。
f.実行機能障害
計画を立てる、組織化する、順序立てる、抽象化するといった、物事を具体的に進めていく能力が損なわれる。
- 実行機能障害は、前頭葉の損傷で多く認められるとされている。
- 行動の開始困難
- 自発性の減退
- 認知または行動の転換の障害(保続、固着)
- 行動の維持障害
- 行為の中断
- 活動の中止困難
- 衝動性・脱抑制
- 誤りの修正障害
など。
3.認知症の行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)の種類と程度を把握する。
- BPSDは認知機能障害を背景として生じる知覚、思考内容、気分または行動の障害による症状である。
- 症状は疾患により異なることが多く、また本人の性格や環境などの影響を受ける傾向にある。
- 進行した認知症では、身体的および神経学的状態の悪化により、BPSDはみられなくなると報告されている。
BPSD(認知症の行動・心理症状)
a.妄想
妄想では行動障害を伴うことが多い。そのため、認知症高齢者本人に身の危険が生じる、介護者の負担が増すなどの状況に陥る可能性があり、状況の観察および評価を適切に行う必要がある。
- ADにみられる特徴的な妄想は、物盗られ妄想である。
被害妄想
- 人が物を盗む、自分の悪口を言うなど
誤認妄想
- ここは自分の家ではない、配偶者は偽者であるなど
b.抑うつ
- 認知症の初期段階では、自分の能力低下への不安から抑うつ状態となる場合がある。また、抑うつは認知症高齢者の引きこもりや食欲低下、社会との交流を拒絶するなど日常生活行動に影響する可能性がある。
- うつ病と、認知症による抑うつとは異なる疾患であるため、鑑別する必要がある。
c.攻撃性
攻撃性は身体状況(疼痛、苦痛、便意、尿意など)への対応が不適切である、認知症高齢者の言うことを否定する、命令するなど、認知症高齢者が不快と感じるような状況で出現しやすい。そのため、適切な対応がなされているかアセスメントを行う。また、他者へ自分の意思や思いを伝えることができないなどのコミュニケーション不良や不満も攻撃性につながると考えられている。
- ADに比べて、脳血管性認知症や前頭側頭型認知症において多くみられる。
身体的攻撃性
- 叩く、押す、ひっかく、蹴るなどの暴力
言語的攻撃性
- 大声で叫ぶ、ののしるなどの暴言、かんしゃくを起こすなど
d.徘徊
徘徊は落ち着きなく過剰に歩き続ける状態であるが、認知症高齢者なりの一定のパターンや理由があるため、十分な観察およびアセスメントを行う。
特に意識変容パターンは、せん妄に伴う症状であるため、普段とは目つきや顔つきが違って見えることが多い。
- 原因疾患によっても徘徊への対応の在り方が異なる。例えば、見当識障害がみられるADの徘徊では、屋外での徘徊が道迷いの原因となり得るため、介護者が付き添って歩く。場合によっては、気分転換を促す声かけなどで徘徊を間接的に制止する関わりが求められる。
- 一方、軽度のピック病に伴う常同行動としての徘徊では、「同じ道を通り同じ時間に同じ場所に帰る」ため、歩行状態に問題がなければ、様子観察でよい場合がある。
誤認パターンの徘徊
- 今いる場所が分からず探索し歩き回る
願望パターンの徘徊
- 「買い物に行きたい」「家に帰りたい」「貯金を下ろしたい」「会社に行く」などの欲求があり、外出し歩き回る
無目的情動パターンの徘徊
- 目的があるようにはみえず、漠然としており、廊下を行ったり来たりなどを繰り返す
意識変容パターンの徘徊
- せん妄に伴う幻覚や妄想のために歩き回る
4.認知機能障害(中核症状)およびBPSD が日常生活(生活リズム・パターン、歩行・移動、食事、排泄、清潔・整容など)に与える影響を評価する。
- 認知機能障害(中核症状)およびBPSDにより障害されているADLの有無やその程度、また、残存機能に関するアセスメントを行う。
- N式老年者用日常生活動作能力評価尺度(N-ADL)などが用いられる。
認知症の進行
a.軽度の生活障害が生じる時期≪初期≫
- 約束を忘れる
- 道に迷う
- 駐車した自家用車の場所を忘れる
- 通常の日常生活と本人のパターンのずれ
- 夜中に電話をする
など
- 記憶障害により生活の連続性が失われる、時間のずれが生じるなど、生活上の小さな失敗を繰り返すが、ADLには障害がないことが多い。
i.
認知機能障害(中核症状)およびBPSDがどのようなときに起こるのか、時間、場所、特定の人への反応などの観察およびアセスメントを行う。
生活上の大きな失敗は少ないため、年齢によるものだと、認知症に気付かれないこともある。本人は物忘れや時間のずれが自覚できないことが多く、注意されると憤慨する、他者を非難するなど周囲との関係が悪くなる場合もある。
ii.
心理・精神的状態の観察およびアセスメントを行う。
- 症状に対する自覚が乏しいが、本人は、なんとなく自分の異変と周囲の変化を感じ、消極的になる、漠然とした不安を抱くなど情緒不安定になりやすい。
b.日常生活に混乱を来し支障を生じる時期≪中期≫
- 一人での買い物ができない、
- 入浴・排泄・食事という行為が理解できない。
- 認知機能障害(中核症状)、BPSDが進行すると、徐々にADLが障害され、日常生活に支障を来すようになる。
c. 日常生活の自立が困難となる時期≪末期≫
- 鏡に映る自分がわからない
- 家族を親切な他人と思う
- 声は出るが意味のある言葉を発せない
- 限られた言葉しか話さない
- 言われた言葉の意味が理解できない
など
- 失語、失行・失認、実行機能障害が進行すると、食事、更衣、排泄、清潔を保つ行為そのものが自立できなくなる。
- また、自分と他人あるいは周囲との関係についての基本的な認識および自分が誰かという認識が障害されていく。徐々に、歩行や嚥下機能などの運動機能も低下し、次第に寝たきり状態となる。
i.ADLの障害の程度、および視聴覚・言語障害の有無や程度を評価する。
- ADLの自立度についてアセスメントを行い、必要な援助は何であるか検討する。
- 認知症高齢者の状態をアセスメントするためには、対象者にとって効果的な方法や位置関係でコミュニケーションをとることが重要である。
認知症の日常生活援助におけるアセスメント
食事のアセスメント
- 食事動作
例)箸やスプーンなどの使い方が分からなくなる、手で食べる、途中で食べるのを止める、箸やスプーンなどで遊ぶなど - 「食べる」という行為そのものは、認知症が進み日常生活に支障を来す段階においても、自立していることが多い。しかし、楽しみながら食べる、量を加減する、栄養のバランスを考えるなどが徐々にできなくなる。
- 失行が現れると道具を認知することが難しく、適切に使えなくなるため、自立度は低くなる。
- 食事摂取量:認知症高齢者は、夕方になると落ち着かなくなることが多いため、朝・昼・夕食ごとの食事量の配分を調整する必要がある。対象者の摂取状況を詳細に観察しアセスメントを行う。
- 食事摂取後の様子:記憶障害により食べたことを忘れて食事の催促を繰り返すことがある。
- 異食:例)目についた紙や花を食べるなど。食べることはできるが、食物とそうでない物を区別することができなくなる場合があり、誤飲や窒息の危険性がある。空腹ではないか、摂取カロリーは不足していないかなどの身体状態、周囲の状況、妄想などとの関連をアセスメントする。
- 拒食:食事介助を急ぎ過ぎたときに起こった誤嚥の記憶、身体疾患、痛み、味覚の変化などが影響し、拒食となる場合がある。また、便秘や尿閉、褥瘡により座位をとると痛みが生じる場合などでも拒食となる可能性があるため、拒食の原因を多角的にアセスメントする。
排泄
- 排泄および排泄動作
例)尿意・便意の有無が分からない、衣服が脱げない、動作が遅く失禁する、排泄後のふく動作ができない。 - 尿意・便意は、そわそわする、衣服を下ろそうとするなど、対象者なりのサインがみられる場合があるため、よく観察する。また排泄リズムについてアセスメントを行う。着脱行為ができない場合は、どの部分がどのように脱げないのかを観察する。失禁がみられる場合は、尿とりパッドの使用を検討する。
- トイレの場所や使い方の理解:例)トイレの場所が分からない、使用後に尿や便を流さないなど
- 排泄行為は可能だが、トイレの場所が分からない、使い方が分からない状態となる場合がある。
- トイレの場所がわからないという見当識障害は、徘徊につながる可能性がある。
- 弄便(ろうべん)と放尿:例)便を食べる、粘土のようにこねる・塗る、トイレ以外の場所で放尿する。
- 弄便や放尿がなぜ生じるのかということをアセスメントする。弄便は、排泄物の不快感によるものが大きいと考えられている。また、失認が生じると、便は単純に”温かくやわらかいもの”という認識となる。よって、食べるという行為や、こねるという行為により、満足感や安心感を得ている場合がある。放尿は、特に男性の場合、施設の廊下を田畑、雑木林などの屋外と思い込んでいる場合がある。
- 皮膚状態の観察および評価:陰部や臀部は皮膚トラブルを起こしやすいため、排泄援助のたびに皮膚状態を観察する必要がある。
清潔・整容
- 入浴および入浴動作
- 着衣失行の有無
- 皮膚状態の観察 など
- 認知症高齢者は、お湯の入っている浴槽に対する恐怖感や、入浴手順が分からないなどの理由から、浴室や浴槽に入ることを拒否することがある。
- 入浴拒否がみられる場合は、その理由をアセスメントする。また、浴室に入り石けんなどを渡すと体を洗い始めることもあり、残存機能の十分なアセスメントが必要である。
- 着衣失行では、衣服の着衣だけでなく、季節や場所に適した衣服を選べないこともあるため、失行の程度を把握する。
ii.
情緒が安定する場面の観察および評価
- 認知症高齢者には、動作が分からなくなり立ち往生する、失敗するなどが日常的にみられる。本人自身もそのような状態に当惑し、不安を感じているものの、置かれた状態については理解ができない。このような状態を十分に理解し関わる必要がある。できること、苦手なこと、よい刺激、悪い刺激などについてアセスメントし、安定した生活が送れるようにする。
iii.
認知症高齢者一人ひとりが、日常生活を心地よく過ごすための援助について評価する。
- 認知症高齢者の状況を共有する中からニーズを見出していく。
ⅳ.
事故が生じるリスクを評価する。
- 転倒・転落、異食、誤嚥、身体拘束など
- 認知症高齢者は、加齢に伴う運動器や感覚器などさまざまな機能の低下、および認知能力の低下により、危険回避ができない。そのため、少しの段差でもつまずき転倒する、ベッドから転落するなどの事故が生じる。
- 身体拘束は、認知症高齢者の尊厳を著しく侵害する行為である。身体拘束による影響には、血行障害、動けないことにより引き起こされる廃用症候群、興奮の増大などがある。また、薬による鎮静を長く続けるなどもよいことではなく、事故につながる危険性がある。認知症高齢者の状態に合わせて、薬が適切に使用されているか評価する。
Ⅴ.
家族の介護力、社会資源の活用状況などについて評価する。
家族関係、介護者との関係、介護力、居住形態、社会資源の活用状況など
- 家族に介護力があるのか、介護保険の申請は済んでいるのかなどアセスメントをする。また、居住地域の支援体制について把握する。
- 認知症高齢者への対応など、認知症高齢者に対する知識が不十分である場合、家族の対応の仕方がBPSDなどの症状を悪化させる可能性がある。
認知症の看護の介入
1.手指衛生の実施
- 微生物の伝播を予防する。
2.対象者の確認、およびコミュニケーション
- 対象者の視聴覚・言語障害の程度を把握し、適切な方法や位置関係でコミュニケーションをとることは、コミュニケーションを円滑にするだけでなく、安心感を与えるなど信頼関係の構築に役立つ。
- 過去、現在、未来のつながりが認識できない状態では、過去のこと、現在のこと、未来のことを細かく言うのではなく、本人の意向を聞きながら、現在の状況やその場所での行動をゆっくり話すようにする。
a.
対象者にとって効果的な方法や位置関係(向き合う、横に立つ、後ろから声をかけない、視野に入ってからアプローチするなど)でコミュニケーションをとる。
b.
身体を同じ高さにして、目線を合わせ、ゆっくり、はっきり、優しく敬意を込めて語りかける。
c.
文字を利用する。
3.食事援助
a.
食事に集中できる環境調整
i.
人的環境を整える。
- 特に咀嚼失行がみられる場合は、スタッフの早い動き、皿数の多さなどが混乱を悪化させる可能性がある。
ii.
認知症高齢者に適した食事用具を選ぶ。
・色や形の工夫
・リハビリテーション用食事用具の使用
・ワンプレートにする
など
- 視覚に障害が生じている場合は、落ち着いた色でコントラストのはっきりしたお椀や皿・コップを選ぶと、誤ってこぼすことが少なくなる。半側空間無視がみられる場合は、ワンプレートにする、弁当箱の活用などにより、自力での食事摂取を促すことができる。
iii.
食事時間を調整する。
- 認知症高齢者は、夕方に落ち着かなくなることが多い。また、徘徊がみられる場合は、数分以上座っていることが難しく、食事を中断することが多い。そのため、食事時には疲れてしまい食欲がない場合がある。
b.
食事内容や食事形態、摂取量の調整
- 徘徊などにより、食事に集中できない場合は、少量でもカロリーが摂取できる食事内容に変更するなどの対応が必要である。失行により道具が使いにくい場合は、指でつかめる食事形体にするなどの工夫をする。
c.
食事介助
・窒息や誤嚥を回避する。
・半側空間無視に対する援助を行う。
・嚥下機能低下への援助およびリハビリを行う。
など
※食事介助の詳細は、「食事援助」(カテゴリー: 食事援助技術) を参照。
※嚥下機能低下への援助およびリハビリテーションについては、「嚥下訓練:間接訓練・直接訓練」(カテゴリー:食事援助技術) を参照。
- 口腔内や喉の奥に大量の食物をためていることがあるため、嚥下を確認しながら食事介助を行い、窒息や誤嚥を回避する。半側空間無視がみられる場合は、一品ずつ食事を出す、食事の配置を途中で移動させるなどの配慮が必要となる。嚥下機能が低下している場合もあるが、咀嚼や嚥下を忘れていることもあるため、喉を触るなどの合図をして食事を促すことが必要となる場合がある。
d.
異食への対応
・環境整備を行う(危険なものは手の届くところに置かないなど)。
・異食時は食した内容を確認する。
・異食時は好みの食べ物と交換する。
など
- 身体状態、周囲の状況、妄想などとの関連をアセスメントし、原因に応じた対応を行う。
- 異食時は窒息や誤嚥を起こしていないことを確認し、食べ物でないものを食した場合は、医師に報告を行い適切な処置を実施する。
e.
拒食への対応
・食事が進む時間、場所、食事形態などを工夫する。
・好みの食べ物を摂取できるようにする
など
- 身体疾患、口腔内の問題、周囲の状況、妄想などとの関連をアセスメントし、原因に応じた対応を行う。
4.排泄援助
a.
排泄行動への援助
・ 着衣失行では、着脱しやすいデザインの衣服へ変更する。
・尿意や便意が分からない場合は、排泄パターンに合わせてトイレ誘導を行う。場合によっては、ある程度時間を決めてトイレ誘導を行うこともある 3)。
・ 動作が遅く失禁する場合は、早めにトイレ誘導を行う。
・ 朝食後などの排便の反射が起きやすい時間にトイレ誘導するなど、排便リズムを整える。
・ 排泄後のふく動作ができない場合は、立ち会って声かけを行う、あるいは介助する。
- 手続き記憶(運動的な熟練や技能の記憶)は最後まで残る傾向にある。対象者の排泄パターンを観察し、トイレ誘導を繰り返すことで、自立して行える可能性がある。排泄パターンが不明確である場合は、ある程度時間を決めて誘導することも必要となる。尿とりパッドやおむつの使用も一案だが、極力使用しない方向で検討する。
- 排泄援助は、排泄行為そのものや陰部などをみられる行為であることを理解し、羞恥心や自尊心に配慮する。
b.
行動障害への援助
・トイレの場所や使い方の表示を分かりやすくする(ドアの色を目立つ色にする、トイレの照明を常時点けるなど)。
・ 行動に失敗する、問題となる行動を起こしても、その行動を柔軟に受け止め対応する。
- 認知機能が障害されても、自尊心や羞恥心は残っている。行動を非難することで、状況の悪化を招くことがある。
c.
弄便・放尿への対応
・ 排泄パターンに合わせてトイレ誘導を行う。場合によっては、ある程度時間を決めてトイレ誘導を行うこともある3)。
・ おむつの着用は最終手段とし、トイレ(ポータブルトイレ、床上便器なども含む)で行うようにする。おむつ着用時は歩行や動きの妨げとならないよう配慮する。
- 弄便や放尿がなぜ生じるのかということをアセスメントし、認知症高齢者の排泄パターンに合わせて援助する。排泄パターンが不明確である場合は、ある程度時間を決めて誘導することも必要となる。
5.清潔・整容の援助
- 浴槽への恐怖感、入浴手順が分からないなどの理由により、入浴に消極的となっている場合がある。
- 個々のペースに合わせて、ゆっくりと声かけや説明をしながら誘導する。入浴拒否がみられる場合は、その理由をアセスメントし、対象者が気分のよい状態になるように援助する。着衣失行の場合は、一枚一枚、本人に声かけしながら、本人主導で選んだり着たりする雰囲気をつくり、できないところを援助する。
- 「汚いからお風呂に入りましょう」と自尊心を損ねるような言い方をする、急がせるなど、不適切な関わりにならないように注意する。また、羞恥心へ配慮した対応を心がける。
- 浴室への誘導を行う:例)好きな人にさっぱりしてから会いましょう、さっぱりして式典に出席しましょう、お手伝いさせてください(頼まれると嫌と言えない性格の場合に有効)
- 着脱動作を援助する。
- スキンケアを行う。
BPSDへの対応例
物とられ妄想
- 室内の片付けをして、常に部屋は整理整頓されている。しかし、物をどこへしまったのか忘れ、「同室の患者が自分の財布をとった」と看護師に話す。
- 物盗られ妄想は物が見つかると納得できるため、一緒に探すなどの対応が有効である。
- 記憶障害に妄想などの症状が加わることにより生じる。病前の性格や人間関係が影響する。
徘徊
[症例1]
看護師の交代時間になると、いつも出口に立ち外を見ている。看護師を娘だと思い、「学校から帰ってくる娘に会いにいかなきゃ」という。
[対応] 「娘さんのことを思っているのですね」など、思いを受け止め、気がかりにしていることを理解し、遂行のための支援者であるという態度で接する。また、看護師が帰る様子を目にしないよう、別の場所へ事前に誘導するなど、原因に応じて未然に対応することも効果的である。
[症例2]
病室を訪問すると不在であり、院内を探していると、入口を通り過ぎようとしたと、守衛から連絡が入る。トイレを探しているという。
[対応] トイレの表示を分かりやすくすることや、排泄パターンのアセスメントに基づいてトイレ誘導を行う、歩行時に声をかけ一緒に行動するなどが有効である。
- 安全確保のための環境整備が基本となる。徘徊の原因を見極め、原因に応じた対応を行うことが重要である。また、徘徊により、身体や他者へ影響を及ぼす危険性がある場合は、未然に徘徊を防ぐ介入が必要である。
誤認
[症例]
「朝御飯を食べましたか」という問いかけに「ええ、子どもたちとわいわい食べましたよ」と、教師時代の給食のことを語る。
[対応] 食事に関する現在の質問であるが、本人の心が過去の人生が充実し楽しかったときにタイムスリップした状態である。まだ朝食を摂取してない場合は、「まだ朝食を食べ終えていない子どもがいるようなので、一緒にお願いしてもよろしいですか」など、対象者の世界を受け入れて対応する。
- 認知症高齢者は、最近の記憶が失われ、古い記憶と現在の事柄に精一杯対応している。現在の問いではあるが、本人の心が過去の人生が充実し楽しかったときにタイムスリップすることがある。その世界にタイムスリップしている対象者をそのまま受け入れ、楽しさを共有することで安心感が生まれる。
認知症の事故防止策
- 環境整備を行う。
- 靴の紐がほどけていないか、衣服のすそが長過ぎないかなどの確認を行う。
- 不必要な身体拘束を行わない。
- 認知症高齢者は危険回避がうまくできない。よって、少しの段差でもつまずきやすい、ベッドからの転落等の危険性があるため、転倒・転落予防を行う。
- 身体拘束は、自傷他害が激しいなど、身体拘束を行わないと安全が確保できない場合に一時的にやむを得ず使用する。本人、家族への説明を十分に行い、身体拘束の解除に関するアセスメントを適切に実施する。
認知症患者・家族への教育
1.
医療機関への早期受診を勧める。
- 認知症の原因疾患によっては治療により治癒する場合があり、また、ADやレビー小体型認知症では、薬物療法により進行を遅らせることが可能となる。認知症かもしれないと思われる場合は、早期受診と早期診断を家族と高齢者本人に勧める。
2.
認知症について学習する機会を設ける。
地域包括支援センターや介護保険施設・事業所、医療機関などが主催する家族介護教室、テレビや書籍、新聞などからの情報など
- 家族が認知症高齢者の介護を通じて、喜びや悲しみを得て、やりがいを感じ、自己の成長を実感できるような過程をたどるためには、認知症について正しく理解することが必要となる。
3.
介護サービスの利用により、生活リズムの調整や無理のない介護を行うよう指導する。
デイサービスや訪問看護の利用など
- 認知症高齢者の中核症状やBPSDが進行すると、家族も十分に睡眠がとれない、休養ができない、食事がゆっくり摂れないなど、生活リズムが乱れ、健康が損ないやすくなる。介護サービスを利用し、自宅での介護を無理なく継続できる方法をともに考える。
4.
認知症高齢者の介護について、早期相談を勧める。
※認知症の介護について相談できる主な機関
- 地域包括センター
- 認知症疾患医療センター
- 都道府県・政令指定都市が設置しているコールセンター
- 認知症の人と家族の会など
家族は、認知症高齢者の身体疾患の罹患時に、どの医療機関を受診したらよいか、認知症高齢者にどのように接したらよいのか、介護保険制度を利用するにはどのようにしたらよいのかなど、さまざまなことに悩みながら長期介護を行っていく。家族が、介護に関してどこに相談したらよいのかという情報を得ていることが重要となる。
5.
社会資源など支援体制の利用を促す。
- 認知症サポーター
- 見守り支援事業(やすらぎ支援事業)
- 徘徊SOSネットワークなど
- 家族だけで認知症高齢者を支えることは、家族の緊張と疲労が高まり、認知症高齢者を受け止めることが困難な状態となる。
- 介護保険制度による介護サービスを利用することはもちろんであるが、地域にも認知症高齢者と家族を支援する人々がいるという情報を得ていると、ゆとりをもって介護することが可能となる。
以上になります!いかがでしたでしょうか。
おわりに
認知症を勉強すると分かってくるのが、認知症の方が過ごすのはやっぱり家が一番かなぁ、ということです。
もちろん、認知症による中核症状が凄まじかったり、介護者がいない、ネグレクト、虐待等によって、入院や施設入所せざるを得ない状況になることもあると思います。
それでも、認知症の患者様が一番落ち着いて暮らせる生活の場は、住み慣れた環境である自宅だということは、間違いないのではないかと思います。自宅での療養を無理なく行うためには、在宅医療を導入することが求められます。そしてそれを実現するためには、介護サービスを調べたり、居宅介護支援事業所に相談することが最初の一手になるかと思います。介護保険の仕組みはとても複雑で、全てを理解することはとても根気と努力がいります。正直私もまだ分からないことがいっぱいです。少しずつ勉強をしていきたいと思います!
以上!皆さまのご意見をお待ちしています。