栗看

~くりかん~

血液透析の手順・看護上の観察・注意点【必要物品・穿刺方法も】

みなさんこんにちは、栗鈴です。

今回の記事は『血液透析の手順・看護上の観察・注意点【必要物品・穿刺方法も】』

です!

それではやっていきましょう!



 

 

はじめに

私は現在訪問看護師なのですが、以前は総合病院の腎臓内科病棟で6年ほど勤務した経験があります。

その間、透析室の看護業務、腎臓内科外来、腹膜透析外来、腎移植術前後の看護などを経験させて頂く機会に恵まれ、腎臓に関する看護に関しては、あらかた経験をしたのかなと感じます。

私がブログを書き始めたときは、腎臓内科に関する記事ばかり書いていたのですが、恥ずかしいレベルの文章と内容だったため、大半は一旦投稿を終了して、下書きの中に入れています…。

今回は久しぶりに腎臓に関する記事を書けて、なんだかうれしいです!

気合を入れて書きましたので、11000文字以上の長い記事になってしまったのですが…良かったらお付き合い頂ければと思います!

 

血液透析の手順・看護上の注意点【必要物品、穿刺、開始・終了の手順】

血液透析の必要物品

  1. 透析用監視装置
  2. 血液回路
  3. ダイアライザー
  4. 水処理装置
  5. 生理食塩水(血液回路用)
  6. 指示された補液
  7. 指示された透析液
  8. ペアン鉗子
  9. 使い捨て手袋
  10. マスク
  11. 袖付きビニールガウン
  12. 滅菌ドレープ
  13. 金属針または透析用留置針16~19G
  14. 駆血帯
  15. 針捨て容器
  16. シリンジ
  17. 単包のアルコール綿
  18. 消毒薬
  19. 綿球
  20. 滅菌ガーゼ
  21. 固定用テープ
  22. 指示された抗凝固薬
  23. ディスポーザブルシーツ

[必要時]

  1. ゴーグル
  2. フェイスシールド
  3. 生理食塩水(注入用)
  4. 18G針

 

血液透析の準備 

1.患者本人であることを確認する。

  • 施設の基準に従い複数の患者識別法を用いて行う。

JCI(Joint Commission International)では、国際基準として2種類の患者識別法を用いた確認方法を推奨している(氏名+生年月日、氏名+IDなど)。

 

2.目的を説明し、同意を得る。


3.穿刺部痛が強い患者の場合は、貼付用局所麻酔薬(ペンレステープなど)を1回1枚、穿刺予定部位に約30分間貼付する(詳細な使用方法については添付文書を参照)。

  • 穿刺時の疼痛緩和を目的に貼付する。

 

4.患者に排泄の有無を確認する。

  • 透析の中断を避けるため、なるべく事前に排泄を済ませてもらう。

 

5.患者に手を洗ってもらう。

  • 液体石けんを泡立ててシャント部を中心に腕全体をよく洗い、ペーパータオルで水分を拭き取る。
  • 穿刺に伴う血流感染を防止する 。
  • 固形石けんを清潔に使用するのは困難。
  • できるだけ液体石けんを使用するのが望ましい。

 

6.体重測定を行う。

  • ドライウェイト(心胸郭比、血圧、浮腫の有無などから設定した理想体重)からの体重増加量を把握する。
  • 風袋(服や靴下などの重み)を同じにする。

 

7.バイタルサインを測定する。

  • 血圧・体温は非シャント側で測定する。(シャント側は体温が高めに出る。加圧によりシャントの血流を遮断しないように非シャント側で血圧測定する。)
  • 血圧計、聴診器、体温計を複数の患者に使用する場合は、患者ごとに必ず洗浄または消毒を行う 。
  • 必要ならば、心電図モニター、パルスオキシメーターを装着する。
  • 循環動態が不安定な患者は継続的にモニタリングを行い、異常の早期発見に努める。

 

8.前回透析後から以下の変化がないか確認する。一般状態を確認し、透析時に注意すべきことを判断する。

  1. 体調の変化
  2. 内服薬の変更
  3. 転倒や打撲の有無
  4. 血便の有無
  • 血便などの消化管出血が疑われる場合、体調の変化が著しいなど、処置や透析条件の変更が必要と考えられる場合は医師に報告する。

 

9.シャント肢の観察を行う。

  • 透析開始前に、シャント肢の異常の有無を確認し、必要ならば医師に報告する。
  • シャント肢に、血管走行に沿う発赤熱感腫脹疼痛などの異常がないか。
  • シャント肢に感染や血栓の可能性など、異常がないか観察する。
  • 血管の位置や走行、内出血血腫形成の有無、弁の位置。
  • 内出血や血腫、弁の部位の穿刺はシャントトラブルの原因となるため、事前に確認し、穿刺部位を決定する。
  • 内シャントの場合、シャント部を触診し、動静脈吻合部から中枢側まで、スリル(血流の振動)が感じられるか。
  • スリル触診範囲の狭小化、減弱、消失がある場合は、シャント狭窄の可能性がある。
  • 内シャントの場合、シャント部を聴診し、シャント音が正常であるか。シャント音聴取範囲の狭小化、高調性雑音の聴取がある場合は、シャント狭窄の可能性がある。
  • 施設の基準に応じて、シャントトラブルの評価表などを用いて内シャントの状況を客観的に評価する。

 

10.観察内容をカルテや透析用記録用紙に記録する。

 


<血液透析の血液回路の準備>

 ※手順4までは事前に行っておいてよいが、手順5のプライミング以降は透析開始直前に行う。

  • 状況に応じ、患者準備と同時進行で行う。


1.医師の指示書、看護記録を見ながら以下を確認する。

  • 透析開始前に、バイタルサイン測定、体重測定、臨床検査など、必要な項目が終了しているか確認する。
  1. 血管アクセス
  2. 透析治療時間
  3. ダイアライザー、透析監視装置の種類
  4. 血流量(流量制限の有無)
  5. 抗凝固薬の種類、濃度、注入速度、モニタリング項目
  6. バイタルサインの測定項目
  7. 体重(ドライウェイトと透析前体重)
  8. 臨床検査項目

 

2.必要物品を準備する。

必要物品の不足で、処置が中断されないようにする。

  • ダイアライザ-および血液回路が、透析指示と合致すること、滅菌有効期限と包装に不良がないかを確認する。

 

3.手指衛生を行い、使い捨て手袋を装着する。

  • 微生物の伝播を予防する。

 

4.指示された薬剤を清潔区域で準備する。

  • プレフィルドシリンジ製品がある場合は、極力それを使用する。バイアルからシリンジに吸引する場合は、透析室から区別された区画で行う。
  • 抗凝固薬は出血性疾患(眼底出血、消化管出血など)の有無や血液凝固データに応じ、医師から薬剤や投与濃度の指示が出るため、正確に調剤する。

 

5.製品説明に従い、透析用監視装置に回路を取り付け、洗浄およびプライミングをする。

  • ダイアライザーと血液回路内の微小な塵、膜の保護剤を充填液で洗浄し空気を除去する。
  • 感染予防のため透析開始直前に行う。
  • 回路開封時、外観および内部に不良・破損・異物混入がないかを確認する。
  • 血液回路はねじれや折れ、汚染が生じないように装着する。

 

6.指示された抗凝固薬を血液回路に取り付ける。

  • 脱血した血液が回路内で凝固することを防止するために、必要ならば抗凝固薬を使用する。
  • 接続時、気泡が入らないように接続する。

 

7.医師の指示に従い、透析用監視装置の初期設定をする。

  • 指示書を見ながら行い、疑問や不明点があれば医師に確認する。

 

8.以下の項目を医師の指示書を見ながら看護師もしくは臨床工学技士2人で確認する。

  • 総(目標)除水量は、体重増加量(透析前の体重-ドライウェイト)+透析中予定水分摂取量+体内に入る生理食塩水の量で計算されることが多い。施設の基準、患者の状態に沿って計算する。
  1. ダイアライザー、透析監視装置の種類
  2. 透析液の濃度
  3. 総(目標)除水量などの初期設定状況
  4. 透析用監視装置の検知機能、警報機能が正常であるか
  5. 抗凝固薬の種類、濃度、注入速度
  6. 回路の組み立てに誤りがないか、接続部に緩みはないか
  7. クランプは適切な部位にされているか

 

9.使用した物品を適切な方法で片付ける。


10.使い捨て手袋を外し、手指衛生を行う。

  • 微生物の伝播を予防する。

 

11.初期設定の内容をカルテや透析用記録用紙に記録する。

  • 透析用記録用紙は常にベッドサイドに置いておく。

 

<内シャントの穿刺>

※透析の開始は、

  1. 穿刺を行うもの
  2. 穿刺の介助および機械操作を行うもの

上記の原則医療従事者2名以上で行う。

どの医療従事者が行うかは各施設の基準に従う。

  • 動脈表在化は動脈穿刺にあたるため医師が穿刺する


<透析用留置針の場合>

1.
患者本人であることを確認する。施設の基準に従い複数の患者識別法を用いて行う。

  • JCI(Joint Commission International)では国際基準として2種類の患者識別法を用いた確認方法を推奨している。

 

2.目的を説明し、同意を得る。

  • 穿刺前に体重測定など、透析前の必要な処置が終了しているか、透析用監視装置の準備が終了しているかを再確認する。

 

3.必要物品を準備する。物品の不足により、処置が中断されることのないようにする。

  • 滅菌処理をしたディスポーザブルキットの使用が望ましい。

 

透析開始用の必要物品

  1. 消毒綿・消毒綿棒
  2. ディスポーザブルシーツ
  3. ガーゼ
  4. ピンセット
  5. 穿刺部保護テープなど。

 

透析終了用の必要物品

  1. 止血圧迫ガーゼ
  2. 消毒綿・消毒綿棒
  3. ピンセット
  4. インジェクションパッドなど。
  • キットの準備が不可能な場合は開始・終了直前に患者ごと別々に無菌的に用意することが推奨される。

 

4.穿刺しやすいように周囲の環境・衣服・体位を整える。

  • 袖をまくり上げる、照明をつけるなど、血管の確認がしやすい環境を整える。

 

5.実施者は、手指衛生を行い、使い捨て手袋、マスク、袖付きビニールガウンを装着する。介助者は、手指衛生を行い、使い捨て手袋、マスクを装着する。

  • 微生物の伝播を予防する。
  • HIV感染者の場合は、フェイスシールドマスクあるいはゴーグルを装着する。

 

6.ディスポーザブルシーツの上に、シャント肢を置く。

 

7.必要に応じて、穿刺予定部位の中枢側に駆血帯を巻く。

  • 穿刺部位を決定しやすくなる。
  • シャントトラブルの原因となるため、駆血帯は強過ぎないよう、長時間締め過ぎないようにする。
  • 動脈表在化、人工血管の場合、駆血帯を使用しないこともある。

 

8.穿刺部位を選択する。

  • 可能な限り、吻合部から5cm以上離れた部位にする
  • 穿刺による狭窄が吻合部に近い部位に生じるとシャントの寿命が短縮する原因となる。吻合部に近い部位を穿刺して失敗した場合、再穿刺部位がなくなることにつながる 。
  • 可能な限り、動脈穿刺部と静脈穿刺部は5cm以上離れた部位にする
  • 体外循環した血流の再循環を防ぐ。
  • 前回の穿刺痕から5mm程度ずらした部位にする。
  • 仮性動脈瘤や穿刺部前後の血管の狭窄の原因となるため、できるだけ広い範囲にまんべんなく穿刺するようにする。
  • 内出血や血腫形成などの異常のある部位、弁の位置は避ける。狭窄や閉塞の原因となる。

 

9.消毒薬を染み込ませた綿棒またはガーゼで、穿刺予定部位から徐々に外側に向かって5~7.5 cm程度の円を描くように消毒する。

 

乾燥まで数分要する場合は、一度駆血帯を外し、消毒後に乾燥させてから再び駆血帯を巻き直す。

  • 微生物の伝播を予防する。
  • CDC(米国疾病管理予防センター)ガイドラインでは0.5%以上のクロルヘキシジンアルコール製剤の使用を推奨しており、クロルヘキシジンが禁忌の場合はヨードチンキ、ヨードホールまたは70%アルコールを代替消毒薬として使用可能としている。
  • 日本ではポビドンヨードが第一選択とされている。
  • 消毒用エタノールを使用することもあるが、人工血管の穿刺時の消毒には不適切とされている。
  • 消毒薬を浸した綿球は使用する直前に滅菌トレイなどに用意する。ポビドンヨードを綿棒に浸透させる構造のキット製品を使用してもいい。
  • 消毒薬が最大限に効果を発揮するために、乾燥させなければならない。
  • 駆血時間は1分を超えないようにし、必要に応じて、駆血帯をいったん緩める。

 

10.透析用留置針の破損や異常がないか目視で確認し、外筒に内筒を押し付けてあそびをなくす。

  • 外筒と内筒の間のあそびをなくすことで、スムーズに穿刺できるようにする。

 

11.利き手の拇指と示指で透析用留置針の把持部を針の切り口を上に向けて持つ。利き手でない方の手の拇指で皮膚を伸展させる。

  • 穿刺部痛が強い場合は、希望に応じて、貼付用局所麻酔薬(ペンレステープ等)を貼付する。
  • リドカイン(キシロカイン)の皮内注射はしない。

 

12.患者に穿刺することを伝え、針と皮膚の角度が25度前後となるように、シャント血管を穿刺する。人工血管の場合は、25度より鈍角で(角度をつけて)穿刺する。

  • 穿刺する血管が浅い、あるいは細い場合は刺入角度を鋭角とし、深いあるいは太い場合は鈍角とする。
  • 人工血管は壁が厚いため、浅い角度で穿刺すると、穿刺針がグラフトの壁を通過する際の抵抗が大きくなる。また、グラフト血管は内腔が大きいので、たとえ深い角度で穿刺しても穿刺針の先端が人工血管の裏側の壁を貫く危険は小さい。

 

13.内筒の把持部に血液の逆流がみられたら、針の角度を浅くしてさらに針を進める。

  • 針の角度を浅くすることで、針を進める際に、血管壁を突き破る危険性を減らす。

 

14.外筒のカニューレに血液の逆流がみられたら、内筒を保持しながら、外筒のみを血管内に適切な深さまで押し進める。

  • 外筒針のみを進めることで、血管を傷つけないで進めることができる。

 

15.駆血帯を巻いている場合は、外す。

 

16.内筒を抜き、針捨て容器に破棄する。

  • 針刺し事故のリスクを低減させるため、内筒は直ちに針捨て容器に破棄する。

 

17.外筒のキャップを緩め、プラスチック部分に血液を逆流させて外筒内の空気を抜き、再びキャップを閉める。

  • 逆流の確認でシャントの開存性を確認すると同時に、外筒内の空気を抜く。
  • キャップのない製品の場合は、シリンジを取り付け、空気を抜く方法もある。

 

18.穿刺部に異常がないことを確認し、透明の滅菌絆創膏で穿刺部を固定する。

  • 留置針が血管壁やグラフト壁に触れないように角度に注意する。

 

19.11~18同様の手順で、2本目のアクセスを確保する。

  • ただし、1本目の穿刺部より、可能な限り5cm以上離して穿刺する。
  • 体外循環した血流の再循環を防ぐ。
  • 血液の凝固を防ぐため、挿入後、速やかに血液回路に接続する。

 

20.留置針のチューブ部をペアン鉗子でクランプする。

  • 血液が逆流することを防ぐ。
  • ペアン鉗子でクランプせずに、指でチューブ部を抑えて、血液回路を接続する場合もある。

 

21.透析前採血の指示がある場合、穿刺後すみやかにシリンジを接続し、必要量採取する。

  • フラッシュ液が混入すると、採血データに影響を与えるため、採血の指示がある場合は、原則、金属針ではなく透析用留置針で穿刺する。
  • 駆血時間が長いと採血データに影響を与えるため、穿刺時の駆血時間に注意する。
  • 動脈ガス分析値を測定する場合は、原則動脈側から採取する。

 

 

<血液透析の開始手順>

1.患者本人であることを確認する。施設の基準に従い、複数の患者識別法を用いて行う。

2.透析治療を開始すること、透析中に体調の変化があればすぐに知らせることを説明し、同意を得る。

 

3.患者、血液透析回路の準備が終了していることを確認し、必要物品を準備する。

  • 物品の不足により、処置が中断されることのないようにする。

 

4.
実施者は患者側の動脈、静脈アクセス部がクランプされていることを確認する。

  • 血液が逆流することを防ぐ。
  • ペアン鉗子でクランプせずに、指でチューブ部を抑えて、血液回路を接続する場合もある。

 

5.実施者は静脈アクセス部のシリンジまたはキャップを外し、消毒する。

  • 血流感染を防止する。
  • 消毒用アルコール綿など、施設や製品の基準に従う。

 

6.
介助者は回路内に気泡の混入がないことを確認し、静脈回路を実施者に渡す。

  • 実施者は静脈アクセス部と血液回路の静脈ラインを接続する。穿刺時に回路をつなげてもよい。血液回路の先端は可能な限りロック式のものを使用する。
  • ロック式でない場合は、回路が偶発的に外れることを防ぐために、テープで接続部をしっかり固定する。
  • 必要に応じて、接続後に血液回路を患者の拇指にかけて持ってもらい、穿刺部がずれないようにする。

 

7.実施者は動脈アクセス部のシリンジまたはキャップを外し、消毒する。

  • 血流感染を防止する。
  • 消毒用アルコール綿など、施設や製品の基準に従う。

 

8.介助者は回路内に気泡の混入がないことを確認し、動脈回路を実施者に渡す。

  • 気泡を確認し体内に空気が入ることを防ぐ。
  • 実施者は動脈アクセス部と血液回路の動脈ラインを接続する。
  • 血液回路の先端は可能な限りロック式のものを使用する 。
  • ロック式でない場合は、回路が偶発的に外れることを防ぐために、テープで接続部をしっかり固定する。
  • 必要に応じて、接続後に血液回路を患者の拇指にかけて持ってもらい、穿刺部がずれないようにする。

 

9.実施者は患者側の動脈、静脈アクセス部のクランプを外す。介助者は血液回路のクランプを外す。

  • 回路に血液が流れるようにする。
  • クランプの外し忘れは、液圧、静脈圧が上昇し、ダイアライザー破損の原因となるため確実に外す。

 

10.
介助者は血流量を50~100ml/分に設定し、ゆっくりと血液ポンプを作動させる。

  • 低流量で開始し、脱血、返血の状態、体外循環開始に伴う患者の状態を観察するため、血流量は100ml/分以下とする。
  • 循環動態が不安定な患者や、血圧低下を引き起こしやすい患者は50ml/min程度にするなど、患者の状態に応じて血流量を調整する。

 

11.
血液ポンプ作動開始後の状態を観察する。施設の基準に応じて、シャントトラブルスコアリングなどを用いて評価する。

① 動脈穿刺部から十分な脱血が得られ、回路のピローがしっかり膨らんでいるか?

  • 回路のピローが薄い状態、中心がへこんでいる状態は脱血不良の可能性が高い。
  • 脱血不良の場合は、血管壁に針の先端があたっている場合があるため、位置を修正し改善するか観察する。
  • 改善が見られない場合は、再穿刺を考慮する。

②静脈圧が過度に上昇していないか?

  • 静脈圧の上昇は、クランプの外し忘れや、静脈穿刺部の問題の可能性が高い。
  • 静脈圧が高い場合、クランプの外し忘れはないか、回路のねじれはないか確認
  • 血管壁に針の先端があたっている場合があるため、位置を修正し改善するか観察する。
  • 改善が見られない場合は、再穿刺を考慮する。

③静脈穿刺部の腫脹、疼痛はないか?

  • 静脈穿刺部の腫脹、疼痛は血液漏出の可能性が高く、再穿刺の必要性がある。

12.脱血、返血に問題がないことを確認後、回路をそれぞれ3枚以上のテープで固定する。

  • 余剰回路は、ループを作り、クリップ、ペアン鉗子などで寝衣またはベッドに固定する。体動などで穿刺針が抜けたり、回路が外れたりしないように安全性を確保する。
  • 動脈側、静脈側それぞれ3カ所以上の固定が望ましい 。
  • テープかぶれなどを考慮し、患者に合った絆創膏を選択する。絆創膏かぶれがある部位には絆創膏は貼付しない。
  • 必要に応じて、シャント部に離被架を使用し、シャント部を保護する。

 

13.透析回路全体が血液で満たされたことを確認後、透析開始ボタンを押す。

 

14.
抗凝固薬を医師の指示書で再度確認後、開始する。

  • 血液の凝固を予防する。
  • 指示書で確認後に開始する。

 

15.透析条件、警報機能の設定、回路の接続、抗凝固薬の投与量を再確認する。

  • 設定条件を誤ると、患者に大きな影響を与えるため、事前に設定していても、再確認をする。

 

16.
患者の状態を観察しながら、血流量を指示速度まで徐々に上昇させる。

  • 急激な脱血による合併症を防止する。

 

17.患者に透析が開始したことを告げ、寝衣や周囲の環境を整える。

  • ベッド柵を下ろしている場合は上げる等、周囲の環境を整え、透析中の危険防止に努める。

 

18.使用した物品を適切な方法で片付ける。

 

19.使い捨て手袋、マスク、袖付きビニールガウンを外し、手指衛生を行う。

 

20.透析中は、患者の状態と透析用監視装置を継続的にモニタリングする。

  • 合併症を予防し、かつ透析による身体への影響を最小限に抑える。
  • 施設の基準に沿って、チェックリストを用いて行うとよい。
  • 必要に応じて、シャント肢に酸素飽和度モニターを装着しモニタリングする。
  • 以下を観察。

①バイタルサイン

②不均衡症状の有無

③透析装置の作動状

④穿刺部の状態


21.トイレなどベッドからの移動時は、バイタルサインを測定し、移動が可能な状態か観察し、医師に一時離脱の許可を得てから行う。

  • 患者の状況に応じ、車椅子移動や、床上排泄を検討する。

 

22.処置の内容と結果をカルテや透析用記録用紙に記録する。

 


<血液透析の終了手順(血液ポンプを用いた生理食塩水置換法)>

  • 返血の方法はいくつかあり、施設の基準に沿って行う。
  • 返血は抜針等を行う者と介助者の2名以上で行うことを基本とする。
  • 事故防止のため、返血は複数の患者を同時に担当せず、開始から終了まで一貫して行い、途中交代は行わない。返血中にほかの作業を行わない。

1.患者本人であることを確認する。施設の基準に従い複数の患者識別法を用いて行う。

  • JCI(Joint Commission International)では国際基準として2種類の患者識別法を用いた確認方法を推奨している(名前+IDなど)。

 

2.返血を開始することを説明し、同意を得る。

  • 不安の軽減をはかる。

 

3.以下を確認する。

  • 総除水量
  • 透析終了時間
  • 指示の輸液・輸血が終了していること
  • 終了時の採血がないか?


4.バイタルサインを測定する。

  • 異常の有無を観察して、返血開始可能な状態であるか、判断する。

 

5.必要物品を準備し、ほかのスタッフに返血を開始することを伝える。

  • 返血中はその場を離れず、他の作業や業務を行えないことを周囲のスタッフに伝える。

 

6.手指衛生を行い、使い捨て手袋、マスクを装着する。必要に応じて、実施者は袖付きビニールガウンを装着する。

  • 微生物の伝播を予防する。

 

7.指示がある場合、透析終了時の採血を動脈側の患者側に最も近い混注ポートを2回消毒し、シリンジを使用し採取する。

  • 採取位置を誤ると採血データに影響を及ぼす。
  • 血流感染のリスクが高く、特に清潔操作に注意する。

 

8.指示がある場合、終了時の薬剤を看護師2人で指示書を確認後、以下のいずれかの方法で投与する。

①静脈側エアートラップ前の混注ポート

  • 患者に薬剤が確実に投与されるように、静脈側より投与する。投与の方法は医師の指示、施設の基準に準ずる。
  • 看護師が静注可能な薬剤か確認後に投与する。

 
②静脈側エアートラップ内

  • 静脈側エアートラップ内より投与する場合、液面レベルを3分の2から4分の3を保ちながら投与する。
  • 血圧低下を引き起こす可能性のある薬剤は、血圧が低値の場合は医師に確認後に投与する。

 

9.すべての検知警報装置が作動していること、除水が終了していることを確認する。

  • 検知警報器装置が作動している状態で返血操作を行う。

 

10.抗凝固薬のポンプを停止する。ただし、医師の指示にて、透析終了の30分~1時間前に停止することもあるため、事前に投与中止時間を確認しておく。

  • 透析終了前に抗凝固薬の投与を中止することで、透析後直ちに凝固時間を正常化させる。

 

11.返血に十分な量の生理食塩水が回路内に残っているか確認し、必要に応じて、新しい生理食塩水バッグを準備する。

  • 返血時に空気塞栓症が生じる危険性を最小限とする。
  • 必要に応じて、生理食塩水バッグに線を引いてマーキングし、返血時の生理食塩水の量が把握できるようにする。
  • 返血にはソフトバッグの生理食塩水を用いる。
  • 使用する生理食塩水の量はダイアライザーの種類や施設の基準に従う。

 

12.補液ラインのクランプを開放し、気泡、凝固塊を血液ポンプ側に移動させる。

  • 気泡、凝固塊が血管内に入ることを防止する。

 

13.血液ポンプを停止させ、補液ラインから動脈側アクセス部方向に自然落差で生理食塩水を送り、血液回路内の血液を置換する。

  • 血液回路内の血液を患者に戻す。
  • 動脈側の圧力が強く、自然落差で置換できない場合にはソフトバック生理食塩水を手で握り圧力をかける。

 

14.血液回路の動脈側をクランプする。

  • 血液が漏出することを防ぐ。

 

15.血液ポンプの流量を50~100ml/分に下げポンプを作動させて、血液回路、ダイアライザー内の血液を生理食塩水で置換する。

  • 回路に空気が混入するのを防ぐため、エアートラップの液面レベルをエアートラップ長の4分の3に維持する。
  • 血流量は80ml/分前後を基本とし、血圧が高いときは血流量を適宜下げる。

 

16.静脈側エアートラップの液面がピンク色になったことを確認し、血液ポンプを停止する。

  • 静脈側エアートラップの液面がピンク色になったことが、置換が終了した目安である。

 

17.
静脈側エアートラップ以降の血液回路を2カ所以上クランプする。

  • 血液が漏出することを防ぐ。

 

18.動脈側穿刺部の固定テープを剥がし、滅菌ガーゼを刺入部にあてて、穿刺針を抜針する。

  • 針刺し事故のリスクを低減させるため、穿刺針は直ちに針捨て容器に破棄する。
  • 安全装置機能付きの穿刺針の場合は、安全装置を作動させて抜針する。針刺し事故防止のため、可能な限り安全装置付きの穿刺針を用いる。
  • 自然抜去予防のため、静脈側穿刺部の固定テープは剥がさないでおく。

 

19.滅菌ガーゼの上から3本の指で抜去部を圧迫し、止血確認後にテープを貼付する。

  • 穿刺針の皮膚上の刺入点と、血管壁上の刺入点の間には少なくとも数mmのずれが生じるため、3本の指で止血する。
  • 指に血管拍動が感じられる程度の強さで圧迫する。
  • 圧迫の強さを確認するため、圧迫しながら、吻合部を触知しスリルを確認する。
  • 目安の圧迫時間は内シャント10分、人工血管、動脈表在化は15分であるが、施設の基準、患者の状態に応じて行う。
  • 止血は最後まで用手が望ましいが、必要に応じて止血バンドを使用する。その際も、内シャントの場合は1~2分、動脈表在化の場合は3~4分、用手止血後に止血バンドを使用する。
  • 再出血の恐れがあるため、十分に止血する。ただし、指示時間以上の圧迫はシャントの寿命を縮める可能性があるため避ける。
  • 必要に応じて、タイマーをかけるなどの工夫をする。
  • 人工血管の止血には注意が必要である。ePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)で作られた人工血管は、ポリウレタンの人工血管よりも止血に要する時間が長い。
  • 止血の際には皮膚の穿刺部と血管の針穴の両方を圧迫する。
  • 圧迫の強さは人工血管を潰して血流を止めてしまわないように、スリルや拍動を指先に感じる程度とする。
  • 特にポリウレタンでは血管壁がやわらかいので、強く穿刺部を押さえると血流が止まって人工血管閉塞の危険が増す。

 

20.静脈側穿刺部の固定テープを剥がし、滅菌ガーゼを刺入部にあてて、穿刺針を抜針する。

  • 針刺し事故のリスクを低減させるため、穿刺針は直ちに針捨て容器に破棄する。

 

21.動脈側穿刺部と同様に、滅菌ガーゼの上から3本の指で抜去部を圧迫し、止血確認後にテープを貼付する。

  • 動脈側穿刺部より比較的止血時間が短くて済む。
  • 目安の圧迫時間は内シャント10分、人工血管は15分であるが、施設の基準、患者の状態に応じて行う。
  • 止血は最後まで用手がのぞましいが、必要に応じて止血バンドを使用する。その際も、内シャント、静脈は1~2分間用手止血後に止血バンドを使用する。
  • 再出血の恐れがあるため、十分に止血する。ただし、指示時間以上の圧迫はシャントの寿命を縮める可能性があるため避ける。
  • 必要に応じて、タイマーをかけるなどの工夫をする。

 

22.使用した物品を適切な方法で片付ける。

  • 施設の基準に従い、透析装置を適切な方法で消毒する。

 

23.使い捨て手袋、マスク、袖付きビニールガウンを外し、手指衛生を行う。

  • 微生物の伝播を予防する。

 

24.バイタルサインの測定、シャント音の聴診、体重測定を行い、透析終了後の状態を観察する。


25.処置の内容と結果をカルテや透析用記録用紙に記録する。

 

以上になります!

いかがでしたでしょうか。

 

おわりに

透析開始から終了までを安全に実施する上で注意すべきポイントはたくさんありますが、大事なのは経験をしっかり積むことと、経験を積んだ後も基本を怠らずに慣れだけで手順を踏まないことが一番大事だと思います!

透析患者さまはただでさえ日常生活に制限が多いので、いかに快適かつ安心・安全に透析を実施できるかどうかが、患者様のQOLを大きく左右するといっても全く過言ではありません!責任とプライドを持って実施していきましょう!

 

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