こんにちは、栗鈴です。
今回の記事は、『胸水の看護計画の例』です!
よろしくお願いします。
- はじめに
- 胸水の病態生理
- 胸水による症状
- 胸水の診断
- 胸水貯留時の随伴症状と、考えられる疾患
- 胸水の治療・対症療法
- 胸水の看護問題の例
- #1 胸水貯留により呼吸機能が低下している
- #2 胸水貯留や原疾患により運動耐用能が低下している
- #3 胸腔穿刺に伴う苦痛やストレスがある
- #4 患者・家族が疾患、検査、治療に対する不安を抱えている
- おわりに
はじめに
呼吸器の症状には、呼吸困難、咳、痰など、よくみられる症状が多くありますね。
ですが、『胸水』については実際に看護をしたことはあるけれど、実はあんまりピンときていない、という看護師の方も、もしかしたらいるのではないでしょうか?
『胸水』は、肺の周囲に生じる症状なのですが、胸水を生じる原因というのは様々で、肺ではなく心臓が原因であったり、肝臓が原因であったり、がんが原因であったりして、一概に呼吸器症状であると言い切れない部分があります。
また、患者様にとっては、咳や息切れなどに比べると、よくある症状ではないため、イメージがしにくい部分があると思います。いきなり胸水という言葉を聞くと、『胸に水?得体の知れない症状だ…こわい…』等と感じてしまうかもしれません。ストレスや不安感が強まりやすい症状のため、病状を適切に理解した上で治療やケアが受けられるように、きちんとした説明や精神的ケアが必要です。
胸水の状態によっては、治療するために胸に針を刺して水を抜く(胸水穿刺)といった処置も必要になることがあります。少しでも検査や治療に伴う苦痛が軽減できるように、看護師はきちんと支援していくことが大事です!
それでは、やっていきましょう!
胸水の病態生理
- 肺の表面は肺胸膜(臓側胸膜)に覆われている。
- また、胸壁の内面は壁側胸膜に覆われている。
- 肺胸膜と壁側胸膜は袋状になっていて、その内部を胸腔(胸膜腔)という。
- 胸膜腔にはわずかな体液(胸膜液)が存在し、潤滑液になっている。
- 胸膜液は毛細血管の静水圧(せいすいあつ)と膠質浸透圧(こうしつしんとうあつ)のバランスによって量が調節されているが、バランスが何らかの理由で崩れた時、胸膜液が異常に増加して胸腔内に胸水として貯留する。
胸水による症状
- 胸水貯留が少量であれば、無症状ということもある。
- 胸水貯留による呼吸の仕事量増加や、胸膜の炎症で、呼吸困難、胸痛、咳嗽が生じるが、原因の疾患によって症状が異なる。
呼吸困難
胸水による換気量の低下と、換気仕事量の増加によって生じる。呼吸困難の程度は胸水の量や原因疾患の状態により影響される。
胸痛
炎症などによって壁側胸膜に分布する肋間神経終末が刺激されることによって起こる。鈍痛から刺し込むような鋭い痛みなど様々で、咳嗽、くしゃみ、深呼吸等によって症状は増強する。
咳嗽
胸水による肺の圧迫や、肺胸膜の炎症などによって、壁側胸膜からの迷走神経刺激によって起こると考えられている。多くは痰を伴わない乾性咳嗽であるが、肺炎や肺結核などの細菌感染症では膿性の痰を伴う。また、肺がん、肺結核などでは血痰を生じることがある。
胸水の随伴症状
胸壁の運動低下、肺の換気量低下、横隔膜周囲の圧迫感、チアノーゼ、口腔内乾燥、浅呼吸、頻呼吸、不整脈、動悸、浮腫、倦怠感、低栄養、発熱などを随伴することがある。
胸水の診断
- 胸水貯留の有無は、胸部X線写真、超音波検査、胸部CT検査で確認できる。
- 立位背腹撮影では、患側の肋骨横隔膜角の鈍化、患側部位のX線透過性低下がみられ、大量胸水の場合は胸腔が全体的に真っ白になる。
- 患側を下にした側臥位撮影では、50ml程度の胸水も検出が可能。立位背腹撮影では、200ml以上の胸水が貯留していないと検出できないことがある。
- 仰臥位背腹撮影では、肺尖部キャップ徴候という、貯留した胸水が肺尖部にかぶさるような像になる。背中側に胸水が貯留し、全体的に患側肺野のX線透過性が低下する。
- 原因疾患を調べる際は、胸水貯留部位を穿刺して胸水をスピッツに採取する。肉眼的な性状を観察したのち、生化学検査、細菌学的検査、細胞診検査を行う。
- 胸水は性状によって漏出液と滲出液に分けられる。
- 胸水に伴う随伴症状や基礎疾患、両側性か片側性か、胸水の性状(透明、混濁、血性)かによって原因疾患を鑑別していく。
胸水貯留時の随伴症状と、考えられる疾患
- むくみ⇒心不全、ネフローゼ症候群、低蛋白血症(両側性が多い)、肝硬変(右側が多い)
- 発熱+胸痛⇒肺炎、膿胸、結核性胸膜炎(片側が多い)
- 突然の胸痛、頻呼吸⇒肺血栓塞栓症、外傷(片側が多い)
- 胸痛⇒悪性胸膜中皮腫(アスベスト等が原因で片側が多い)
- 腹痛、背部痛⇒急性膵炎(左側が多い)
胸水の治療・対症療法
- まず原疾患に対する治療を行う。
- 合併症のない肺炎、肺血栓塞栓症、手術等が原因の場合、胸水は自然に再吸収されるので、無症状であれば胸水に対する治療の必要はない。
- 胸水が大量に貯留し呼吸困難を有する場合は穿刺排液する。ただし、一度に大量の胸水を除去すると、肺が急激に再膨張することにより肺水腫を引き起こす場合がある(再膨張性肺水腫)ため、1.5L以上除去することは避け、日を分けて除去する。
- 癌性胸膜炎で胸水貯留を繰り返す場合は、カテーテルを留置して持続して排液し、完全に排液させたのち、肺胸膜と壁側胸膜を癒着させて間隙をなくす処置を行う(胸膜癒着術)
- その他の対症療法としては疼痛に対する鎮痛薬の投与や、呼吸困難に対する酸素療法を行う。
胸水の看護問題の例
#1 胸水貯留により呼吸機能が低下している
#2 胸水貯留や原疾患により運動耐用能が低下している
#3 胸腔穿刺に伴う苦痛やストレスがある
#4 患者・家族が疾患、検査、治療に対する不安を抱えている
#1 胸水貯留により呼吸機能が低下している
- 看護診断:ガス交換障害
- 関連因子:換気量の低下、換気仕事量の増加、胸痛、咳嗽
- 長期目標:呼吸機能が改善する
- 短期目標:胸水貯留が減少する、呼吸が安楽である、血液ガス分析で悪化の徴候がない
OP
- バイタルサイン、SpO2、血液ガス分析
- 胸郭の大きさの左右差、肋間の傍流、胸壁呼吸運動の低下、声音振盪の減弱・消失、触診による濁音・無反響、患側呼吸音の減弱、呼吸音の左右差の有無
- 呼吸困難感、胸痛、咳嗽の有無
- 換気量低下、横隔膜圧迫、胸壁運動低下、チアノーゼ、口腔内乾燥、浅・頻呼吸、頻脈、不整脈、動悸、浮腫、倦怠感、低栄養、発熱の有無
TP
- 胸水貯留による症状が軽減できるように安楽な体位をとる
- 医師の指示に従って適切な酸素療法を実施する
- 安全・安楽に検査が実施できるように説明・精神的支援を行う
- 保清、口腔内の清潔を保持して感染予防に努める
EP
- 安静度の範囲と安静の必要性について説明する
- 酸素療法実施時はその必要性を説明する
- 症状や胸水貯留の原因に関する疑問点などを表現できるように声掛けする
#2 胸水貯留や原疾患により運動耐用能が低下している
- 看護診断:活動耐性低下
- 関連因子:心・肝・腎不全、癌性胸膜炎、結核性胸膜炎、悪性中皮腫
- 長期目標:活動量が増加する
- 短期目標:胸水や原疾患による症状が軽減する
OP
- 日常生活動作のセルフケ能力の程度
- 原疾患に関連する徴候・症状
TP
- 患者の病状に応じた日常生活の援助を行う
- 疼痛の程度に応じて鎮痛薬、湿布薬などで症状の軽減を図る
- 医師指示に従い、咳嗽が著しい場合は鎮咳薬で症状を軽減する
- 急変時等の状態変化に備え、一次救命の用意を近い場所で準備しておく
EP
- 呼吸困難、胸痛、咳嗽の生じやすい理由を、わかりやすい表現で説明する
- 咳嗽時の胸痛を軽減する方法(枕やクッションを抱える、手掌で胸をおさえる等)を説明する
#3 胸腔穿刺に伴う苦痛やストレスがある
- 看護診断:安楽障害
- 関連因子:胸腔ドレーンの持続挿入、体動制限
- 長期目標:胸腔穿刺に伴う苦痛症状の訴えが軽減される
- 短期目標:胸腔穿刺に伴う苦痛を言葉で表出できる
OP
- 倦怠感、苦痛表情、意欲低下、神経過敏の有無
- 穿刺後の出血の有無
- ドレナージ中の胸郭の大きさの左右差の有無
- 排液された胸水の性状・量
- 胸腔ドレーン水封室中の水面の呼吸性・拍動性の動き(動きがない場合は凝血などによる閉塞の疑いあり)
- ドレーン挿入部の状態(発赤、圧痛、皮下気腫の有無など)
TP
- 胸腔穿刺、胸腔ドレーン挿入における説明と同意が適切になされるように患者・家族を支援する
- 胸腔穿刺、排液時は、安楽な体位がとれるように援助を行う
- 胸腔ドレーン挿入中の生活援助(保清・移動など)を行う
EP
- 胸腔穿刺の手順などを簡潔に説明する
- 胸腔ドレーンの安全管理に対する説明を行う(チューブの屈曲・抜去防止など)
- 患者・家族の不安や疑問、生活上の不便さなどを把握して、適切な説明を行う
- ドレーン抜去時の、最大吸気位または最大呼気位での息止めについて説明や励ましを行う
#4 患者・家族が疾患、検査、治療に対する不安を抱えている
- 看護診断:不安
- 関連因子:療養の長期化
- 長期目標:不安の軽減を表出できる
- 短期目標:不安を言葉に出して表出できる
OP
- 不安、緊張、怒り、悲しみの表情、落ち着きがない様子などの有無
- 不安、心配の訴えの有無
- 頻脈、頻呼吸、震えなどの有無
- 病状や検査、治療に対する質問の有無、内容など
TP
- 不安が表出できる受容的な態度で接する
- 患者の健康状態や検査・治療など、不安の表出を促す
EP
- 検査、治療実施時の説明を、患者・家族の理解状況に合わせてパンフレットなどを用いて説明する
- 心配なことや質問は遠慮なく看護師に伝えるように説明する
以上になります!
おわりに
胸水を生じる原因は様々で、原疾患によって治療方針が異なってきます。患者様が病状を適切に理解できるように、丁寧な説明と丁寧なケアが最重要です!胸腔穿刺や胸腔ドレーン挿入が必要となる場合は、医師との連絡を密に行いながら、患者様が安心・安全に治療が受けられるように病状説明と治療管理を行いましょう!また、胸水貯留が消失しても、長期の薬物療法や酸素療法が必要となる場合があります。必要な日々の健康管理について患者さまが理解でき、不安が少しでも解消して日常生活が過ごせるように、暖かい支援をしていきましょう!
おしまい。
参考文献
『緊急度・重症度からみた症状別看護過程』545P~560P 編集:井上智子/佐藤千史 医学書院
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